作家・作品紹介

峻厳な青と、赤富士の光――「ヒマラヤの画家」福王寺法林

福王寺法林は、ヒマラヤの風景をライフワークとして描き続けたことから「ヒマラヤの画家」として広く知られ、文化勲章も受章した日本画家です。峻険な山々を描く画力と気迫は、題材の雄大さだけでは説明できません。むしろ、法林という人の「描く意志」そのものが、作品の迫力になっている。そう感じさせる画家です。

峻厳な青と、赤富士の光――「ヒマラヤの画家」福王寺法林

絵に賭けた生涯

法林は6歳のとき、父との狩猟中の不慮の事故で左目を失明しました。画家にとって視覚は根幹であり、隻眼は大きなハンディキャップです。それでも夢を手放さなかったのは、持ち前の気性に加え、武士の家柄という背景や、この事故に負けまいとする生来の気質が深く作用していたのでしょう。
16歳で上京してもすぐに道が開けたわけではなく、21歳で召集され、太平洋戦争の中国戦線へ配属されます。出征前、全財産をはたいて岩絵具を買い込み、縁の下に埋めて「生きて帰り、必ず画家としてこの絵具を使う」と誓ったという逸話は、法林の覚悟を端的に伝えます。長く苦しい戦地での行動を支えたのも、そして脱出行を成し得たのも、あの岩絵具が心の支えとして存在していたからだったのかもしれません。
戦後も絵筆を手放さず、最晩年まで制作を続けたことが、いまの大作群につながっています。


峻厳な青と、赤富士の光――「ヒマラヤの画家」福王寺法林

50代半ばから始まったヒマラヤ

法林が初めてネパール、ヒマラヤへ取材旅行に出たのは50代半ばとされます。そこからヒマラヤ連作が本格的なライフワークになっていきました。注目すべきは、ただ現地を訪れて終わりではなく、「自分の眼で確かめ、皮膚で感じないと描かない」という姿勢を、文字通り貫いた点です。
ヘリコプターや飛行機で上空から何度も取材し、稜線のかたちや斜面のうねり、光の当たり方までスケッチして、「山の骨組み」をつかみにいきました。
実際に作品を見ると、そのこだわりが画面の構造として表れているのがわかります。やっていることは豪快に感じますが、実は細かな観察の積み重ねです。だからこそ、太く力のある筆づかいでも雑に見えず、描かれた山が目の前にどんと立ってくるように感じられます。


峻厳な青と、赤富士の光――「ヒマラヤの画家」福王寺法林

日本の山を気品で描く

法林の代表作として、ヒマラヤと並んで語られるのが赤富士です。
赤富士(朝富士)は縁起物として親しまれる題材ですが、法林の赤富士は「縁起が良い」で終わりません。燃えるような赤をただ派手に塗り立てるのではなく、画面を引き締める暗色や、峰に宿る光の扱いによって、気品と力強さが同居しています。
とりわけ金を用いた作品は、装飾としての豪華さというより、画面に凛とした光を差し込むためのものです。富士を縁起物として描きながら、同時に「山の尊厳」も手放さない。そんな姿勢が、ヒマラヤとは別のかたちで日本画らしさを引き出しているのだと思います。


峻厳な青と、赤富士の光――「ヒマラヤの画家」福王寺法林

次世代へ受け継がれる色彩

法林の仕事は、家族の中でも次の世代へ受け継がれています。
次男の福王寺一彦は父に師事し、日本芸術院会員・日本美術院同人として制作を続ける一方、日本美術家連盟理事長、文芸美術国民健康保険組合会長も務めています。
父譲りの美しい青を根底に置きながら、独自の技法で奥深い青や緑を生み出し、透明感のある世界を築き上げました。月明かりの風景など、静けさの中で色が立ち上がる画面は、父の峻厳とは別の方向から自然を捉えています。
さらに福王寺みどりこは、法林・一彦に師事した日本画家であり、一彦の夫人でもあります。原生林の森や草花など植物を主題に、落ち着いた色合いの中に静寂と、同時に強い生命力を感じさせる作品が特徴とされます。題材は違っても、「自然の気配を描く」という感覚が、家族の中で一本につながっているように思えてきます。
福王寺法林のすごさは、ヒマラヤという題材の大きさだけではありません。隻眼というハンデを抱えながらも描くことを手放さず、戦地でも未来の絵具を信じ、50代半ばから世界の屋根に挑み、赤富士で日本の光を描ききる。その一貫した意志が、作品の迫力になっています。
そしてその姿勢は、息子の福王寺一彦ら次の世代にもしっかりと受け継がれています。

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