2025.12.02
岡山発、現代アートのキャラクター作家──ハシヅメユウヤ(橋爪悠也)

地元に根づくキャラクターの魅力
岡山市に滞在した際、市内のあちこちでハシヅメユウヤ(橋爪悠也)の作品を目にする機会がありました。カフェや商業施設、さらには地元のブライダル企業の広告にまで、彼の描くキャラクターがさりげなく登場している。街に溶け込みながら、どこか懐かしさを感じさせるその存在感に、岡山での人気ぶりがうかがえました。
作品の特徴は、どこか親しみやすいキャラクターたちです。とくに「ドラえもん」で知られる、藤子・F・不二雄の作風を彷彿とさせる、丸みのある、やわらかい雰囲気の人物像が中心に描かれます。現代アートの世界では、他者の表現を参照することに慎重になる作家も多いのですが、ハシヅメはその境界線をあえて意識しながら制作を続けています。作品に潜む思考や問いかけを知ると、ただの模倣ではなく、ハシヅメならではの表現として立ち現れてくるように感じられました。

アパレルからアートへ──制作の軌跡
1983年に岡山で生まれたハシヅメは、高校卒業後に大阪の服飾専門学校に進み、アパレル業界で広告やプレス業務を経験しながらグラフィック制作の技術を磨きます。2010年代に入るとイラスト制作に本格的に取り組み始め、2016年ごろからは自主企画の展示も行うようになります。そうして、少しずつ発表の場を広げ、地元での認知度を高めていきました。
2017年には岡山で「FUJIKOGANSAKUSHI(藤子贋作師)」という展示を開催。既存作品の影響を前面に出しつつ、オリジナルとコピーの境界を問いかける内容で話題を呼びました。この試みは、彼の創作スタンスを象徴するもので、オマージュの存在を隠さずに表現するスタイルがその後の制作の核となっていきます。
代表作の一つである「eyewater」シリーズでは、藤子作品を思わせるキャラクターが一粒の涙を流す瞬間を描く。子どもの表情を豊かに描く藤子作品の特徴を受け継ぎつつ、涙の象徴を現代的に再構築。反復する構図や鮮やかな色彩によって、悲しみに偏らない明るさが加わることで、観る人に新しい印象を残しています。
オマージュと独自性のはざまで
オマージュを隠さない制作スタイルのため、SNSでは議論や批判も巻き起こりました。2018年には、ハシヅメのイラストがあるバンドのCDジャケットに採用されましたが、プロのイラストレーターから使用許可の有無を指摘され、最終的にはジャケットが別のデザインに差し替えられることになりました。それでも、たとえネガティブな情報であっても、一度ネット上に広まればハシヅメの知名度を高めるきっかけとなります。むしろ批判によって作品や考え方に触れる人が増え、評価する声も同時に広がっていきました。
その後、ファッションブランドとのコラボレーションや展覧会への参加など活動の幅も広がり、現代アートの舞台へと着実に足を踏み入れていきます。藤子・F・不二雄との関係は、面識や師弟関係というより、作品世界に対する敬意とオマージュに基づくもの。ハシヅメは「すべてのものは何かを参照しているのではないか」、「何かはつねに何かの真似なのではないか」という考えのもと、オリジナルかコピーかという二元論にとらわれず、表現の自由な在り方を探り続けているのです。

現代アーティストの問いを体現する
イラストやグラフィックの世界では、トレースや盗作の問題がしばしば話題になります。批判に押されて活動を休止したり、創作をやめてしまう作家も少なくありません。しかしハシヅメは、揺さぶられながらも描き続け、自身の立場を作品を通して示してきました。オマージュと独自性の間をどう生きるかという問いに、彼は自らの作品で応えています。
岡山で育ち、アパレル業界を経て現代アートの舞台に立ったハシヅメユウヤ。誰かの影響を感じさせつつも、自分の声をしっかりと宿す作品は、観る人に新たな視点や発見をもたらします。オリジナルとオマージュの境界を行き来する試みは、現代アートの自由さと挑戦の面白さを象徴しているようにも思えます。
街角でふと目にした作品、展覧会のひとコマで出会うキャラクター。その姿には、どこか懐かしさを伴いながらも、同時に新鮮な驚きが広がります。それは、過去への敬意と今を生きる独自の表現が重なり合うからかもしれません。