オーギュスト・ロダン作品の価値と相場:近代彫刻の父が残した芸術的遺産
- 近代彫刻の父
はじめに
「考える人」や「接吻」など、誰もが一度は目にしたことがある彫刻作品を生み出した天才彫刻家・オーギュスト・ロダン(1840年-1917年)。「近代彫刻の父」と称されるロダンの作品は、芸術的価値だけでなく市場価値においても高い評価を受け続けています。
今回は、そんなオーギュスト・ロダンの生涯と作品の魅力をご紹介します。作品の価値や特徴についても解説しておりますので、オーギュスト・ロダン作品をお持ちの方、売却をご検討の方は、ぜひ最後までお読みください。

出典:Wikipedia
オーギュスト・ロダンとは?
「近代彫刻の父」と呼ばれる理由:彫刻革命の先駆者
フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダンは1840年11月12日、フランスのパリで警視庁の下級官吏を父として生まれました。彼が「近代彫刻の父」と呼ばれるのは、それまでの彫刻の常識を大きく変革したためです。
ロダン以前の彫刻は、神話や著名人、貴族をモチーフにした理想化された表現が主流でした。しかしロダンは、一般の人々を等身大で表現し、対象の内面や感情までをも捉えようとする革新的なアプローチを取りました。
彼は「絵画とは単なる物体の描写ではなく、画家が想像力を駆使して内面世界を表現するもの」という芸術観を持ち、その理念に基づき独自の表現方法を確立していきました。ロダンの作品には、伝統的な美の規範に縛られない自由な表現と、モデルの魂を捉えようとする深い洞察力が宿っています。
このような彫刻に対する新しい考え方こそが、「近代彫刻の父」と呼ばれる所以なのです。
挫折から飛躍へ:40歳からの大器晩成と『青銅時代』
ロダンの道のりは決して平坦ではありませんでした。14歳から装飾美術学校(プティット・エコール)で学び始めたものの、その後、名門の国立高等美術学校(エコール・デ・ボザール)に3度も不合格となります。
この挫折の後、ロダンは長い間、装飾職人として働きながら独学で彫刻の技を磨いていきました。30歳の時には普仏戦争が勃発しますが、近視のため兵役を免れ、その後ベルギーへ渡り彫刻工房で働きます。
転機となったのは、35歳の時に訪れたイタリア旅行でした。ここでミケランジェロの作品に出会ったロダンは深く感銘を受け、彫刻家としての道を本格的に歩み始めます。
そして37歳の時に制作した『青銅時代』がサロン展に出品されると、そのリアルな表現から「実際の人間から型をとったのではないか」と疑惑をかけられるほどでした。この作品は後に国家に買い上げられ、ロダンの名は一気に広まることとなります。
40歳を過ぎてからようやく彫刻家として認められたロダンは、その後『地獄の門』の制作を依頼されるなど、次々と重要な作品を手がけていきました。まさに大器晩成の芸術家と言えるでしょう。彼の経歴は、諦めずに自分の芸術を追求し続けることの大切さを教えてくれます。

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ロダンの創作に影響を与えた人間関係
ロダンの芸術と人生において、二人の女性の存在は特筆すべきものがあります。一人は、24歳の時から生涯をともにしたローズ・ブーレで、彼の死の数ヶ月前、77歳の時にようやく正式に結婚しました。
もう一人は、43歳の時に出会った19歳の若き彫刻家カミーユ・クローデルで、彼女はロダンの弟子となり、後に愛人関係へと発展しました。カミーユの存在はロダンの創作に大きな影響を与え、多くの作品が彼女をモデルとして制作されました。このような複雑な人間関係は、ロダンの作品に豊かな感情表現をもたらしたと考えられています。
オーギュスト・ロダンの作品の魅力や特徴
生命と感情を宿す革新的な彫刻表現と技法
ロダンの作品の最大の特徴は、生命感と内面性の表現にあります。彼は粘土を使って複雑で深みのある表面を作り出す独特な能力を持ち、彫刻の表面に微妙な凹凸や質感をつけることで、まるで息づいているかのような生命感を表現しました。また、対象の外見だけでなく内面の精神性や感情までを捉えようとする表現方法も特徴的です。
さらに、ロダンは「アセンブリング/アッサンブラージュ」(※)と呼ばれる独創的な制作手法も導入しました。
これは、ある作品から一部を切り取って独立させたり、逆に独立した作品を新たな作品に組み込んだりする方法です。例えば『地獄の門』には『考える人』や『影』といった別個に発表された作品が組み込まれています。この手法は当時としては革命的で、後の20世紀の彫刻家たちに大きな影響を与えました。
※アセンブリング/アッサンブラージュ:既存の部品や作品を組み合わせ、新たな作品を作り出す技法。

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世界を魅了した代表作
ロダンの代表作として広く知られているのが『考える人』です。この作品は元々、『地獄の門』の一部として制作されたものでしたが、後に独立した作品として発表されました。当初は「詩人」と名付けられていましたが、鋳造した職人によって『考える人』という名前が付けられたと言われています。
『地獄の門』は、ロダンが政府からの依頼で制作を始めた大作で、ダンテの『神曲』地獄篇に着想を得たものです。生前のロダンは完成を見ることができませんでしたが、この一つの作品から多くの代表作が生まれました。
『カレーの市民』は、百年戦争の際に人質となったカレー市の6名の市民を描いた作品で、市民の苦悩と覚悟が生々しく表現されています。その他、恋人同士の官能的な抱擁を表現した『接吻』や、フランスの文豪を記念した『バルザック像』なども有名です。

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エディション番号と鋳造過程:ロダン作品の特殊性と真贋
ロダンの彫刻作品を理解する上で重要なのが、「エディション番号」と「鋳造過程」の概念です。ロダンの作品、特にブロンズ彫刻には同じ作品が複数存在することがあります。これは彫刻の特性上、原型があれば複数鋳造できるためです。
ロダンのブロンズ作品が作られる過程は、一般的に以下のようになります:
- ロダンが粘土などで原型を制作
- その原型をもとに石膏などで型取り(石膏原型を作成)
- 石膏原型をもとに鋳造所でブロンズを流し込み、ブロンズ像を制作
このプロセスにより、原型が存在する限り、理論上は無限に作品を作ることが可能です。しかし品質管理のため、多くのロダン作品には「1/10」「3/8」といったエディション番号が付されています。これは、その作品が全部で何点鋳造される予定の何番目であるかを示しています。
ロダンの死後も作品の鋳造は続けられました。これを「死後鋳造」(Posthumous casting)と呼びます。ロダンは死後も自分の作品を世界に広めたいという遺志を残し、原型などの管理をフランス政府に委ねました。現在、フランスではロダン作品の鋳造点数は法的に12点までと制限されており、ロダン美術館の理事会の承認の下で厳しく管理されています。
このような背景から、ロダン作品の真贋判定には専門的な知識が必要です。正規のエディション番号を持つ作品か、正式な手続きを経て鋳造されたものかなど、様々な点から判断する必要があります。作品をお持ちの方は、専門の鑑定機関に相談されることをおすすめします。
近年のオークション落札(相場)情報
近年のオークションにおけるブロンズ作品の落札額(落札者購入手数料含む)は以下の通りです。
- 2025年
- ニューヨーク
- 高さ26cm:2,136万円(ボナムズ)
- 高さ25.4cm:6,849万円(サザビーズ)
- 高さ47.9cm:1,388万円(フィリップス)
- 高さ197cm:4億4,119万円(クリスティーズ)
- 日本
- 高さ26.6cm:5,520万円(毎日オークション)
- パリ
- 高さ94.6cm:4億9,728万円(サザビーズ)
- ニューヨーク
このように、没後100年経ってもなお、その人気の高さがうかがえます。
オーギュスト・ロダンの作品を高値で売却するポイント
来歴や付帯品・保証書
来歴や付帯品:購入先の証明や美術館に貸出、図録に掲載された作品等は鑑定書が付帯していなくても査定できる場合があります。
保証書:購入時に保証書が付帯する作品もあるので大切に保管しましょう。
贋作について
ここ数十年のインターネットや化学技術の向上により、著名作家の贋作が多数出回っています。ネットオークションでは全くの素人を装い、親のコレクションや資産家所蔵品等の名目で出品し、ノークレームノーリターンの条件での出品が見受けられます。
落札者は知識がないがために落札後のトラブルの話をよく聞きます。お手持ちの作品について「真贋が気になる」「どの様に売却をすすめるのがよいか」等、お困りごとがあればご相談のみでも承っております。
ブロンズ
状態を良好に保つ為の保管方法
ブロンズは主に銅で制作され、劣化しにくいことから街のいたるとこにモニュメントとしてブロンズ製の銅像などが存在します。お手入れとしては水を含ませた布で優しく拭うように埃を取り除きましょう。深緑色に変化することもありますが、味わいとして楽しめる一方で、ムラや痛みには気をつけたほうがいいでしょう。
真贋
元々鋳造技法で制作されている為、複製しやすく贋作も多く見受けられます。ブロンズ作品は底や背面に作家のサインの記載がある事が多く、確認してみましょう。
オーギュスト・ロダンについての補足情報
ロダンに関する補足情報として、以下の重要点をご紹介します:
日本におけるロダン受容と所蔵作品
- 白樺派による紹介: 1910年に文芸雑誌『白樺』で「ロダン特集号」が組まれ、日本に本格紹介
- 浮世絵との交換: ロダンは武者小路実篤らから送られた30枚の浮世絵と引き換えに3点の彫刻を日本に贈る
- 日本の彫刻家への影響: 荻原守衛、高村光太郎、佐藤忠良など多くの日本彫刻家に影響
- 日本人「花子」: ロダンのモデルとなった唯一の日本人で、彼女をモデルにした作品が新潟市美術館に所蔵
主な国内所蔵美術館
- 国立西洋美術館(東京):『地獄の門』『カレーの市民』『考える人』
- 静岡県立美術館:ロダン館に約30点所蔵(『考える人』大小版、『裸のバルザック』など)
- 新潟市美術館:『死の顔・花子』『空想する女・花子』
- 京都国立博物館:『考える人』
- その他:大原美術館(岡山)、西山美術館など
市場価値の決定要素
ロダン作品の市場価値は一般的に以下の要素によって左右されます:
- 生前鋳造か死後鋳造か
- 鋳造の質と保存状態
- 来歴(展覧会歴や所有者の履歴)
- 作品の重要性(代表作か否か)
2015年には初鋳造作品の『アフロディーテ』がロンドンのオークションで約1億4200万円で落札されるなど、今日もロダン作品は高い市場価値を維持しています。お手元に作品をお持ちの方は、専門の鑑定士による査定をお勧めします。
まとめ
「近代彫刻の父」オーギュスト・ロダン。伝統的な彫刻の概念を覆し、人物の内面や感情までを表現した彼の革新的な作品は、今なお世界中で高い評価を受けています。『考える人』『地獄の門』『カレーの市民』といった代表作は、芸術的価値だけでなく市場価値においても注目されています。
ロダンの作品は、エディション番号や鋳造時期によって価値が大きく変わるため、専門的な知識を持った鑑定士による査定が欠かせません。所有されている作品の真の価値を知ることは、適切な売却判断をする上で非常に重要です。眠っているロダン作品をお持ちの方は、ぜひ専門家の目で価値を見定めてみることをおすすめします。
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