はじめに
「女性の美を追求した印象派の画家」と称されるピエール=オーギュスト・ルノワール。その明るく温かみのある色彩と柔らかな筆触で描かれた作品は、今なお世界中の美術愛好家を魅了し続けています。
ルノワールの作品は、国際的なオークションでも高い評価を受け、代表作『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』は1990年に7800万ドルという驚異的な価格で落札されました。
彼の作品は明るい色彩と優美な表現で多くの人々を魅了し、美術品市場でも高い評価を受け続けています。
今回は、そんなピエール=オーギュスト・ルノワールの生涯と作品の魅力をご紹介します。作品の価値や特徴についても解説しておりますので、ルノワール作品をお持ちの方、売却をご検討の方はぜひ最後までお読みください。

ピエール=オーギュスト・ルノワールとは?
印象派を代表する「女性美の画家」の生涯
ピエール=オーギュスト・ルノワールは1841年、フランスのリモージュで貧しい仕立て屋の家庭に生まれました。幼くして才能を見出された彼は、13歳で磁器工場の絵付け職人となります。この経験が、後の繊細な色彩感覚と丁寧な描写技術の礎となりました。
20歳で本格的に画家を志したルノワールは、1862年にシャルル・グレールの画塾に入学。ここでクロード・モネ、アルフレッド・シスレーと出会い、生涯にわたる交流が始まります。彼らと共に新しい表現を追求した結果、1874年の「第1回印象派展」に参加し、従来の絵画とは一線を画す鮮やかな色彩と光の表現で注目を集めました。
転機となったのは1880年代のイタリア旅行です。ラファエロやティツィアーノといった巨匠たちの作品に感銘を受けたルノワールは、「これ以上印象派を追求しても、私は絵を描くことも、デッサンをすることもできなくなる」と語り、より線描と形態を重視する「アングル様式」へと移行します。『大水浴図』はこの時期の代表作で、古典的な造形美を追求した作品です。
1890年代に入ると、ルノワールは印象派時代の色彩感覚とアングル様式の構成力を融合させた独自の画風を確立しました。温かみのある赤みがかった色調で描かれた『ピアノに寄る少女たち』や、豊満な女性像を生命力溢れる筆致で表現した晩年の裸婦像が、この時期を代表します。厳しい関節リウマチに苦しみながらも創作への情熱を失わなかった彼は、南仏カーニュ=シュル=メールで1919年、78歳でその生涯を閉じました。
ピエール=オーギュスト・ルノワールの作品の魅力や特徴
3つの時代に見るルノワール作品の特徴
ルノワールの画風は生涯を通じて大きく変化し、一般的に3つの時代に区分されます。
初期印象派時代(~1881年頃)
印象派の時代のルノワールは、光と色彩の表現に重点を置き、明るく鮮やかな色調で日常の風景や人々の姿を描きました。
- 明るい色彩と筆触分割(※)による光の表現
- 輪郭線をぼかし、空気感や光の効果を重視
- パリの都市生活や余暇の風景をテーマにした作品
※筆触分割:絵の具を事前にパレット上で混ぜるのではなく、小さな色の点や線を画面上に置いていく印象派の代表的技法。遠くから見ると色が自然に混ざって見える効果がある。
代表作として『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』(1876年)や『舟遊びをする人々の昼食』(1881年)が挙げられます。

出典:Wikipedia
アングル様式時代(1882年~1889年頃)
イタリア旅行の影響から、より線描と形態を重視する様式へと移行しました。
- 明確な輪郭線による形態の強調
- 絵画構成の古典的秩序の重視
- 写実的なデッサンと滑らかな肌の表現
代表作『大水浴図』(1884-1887年)は、3年の歳月をかけて制作された大作で、裸婦の形態を明確に描き、古典的な美の理想を追求しています。

出典:Wikipedia
円熟期(1890年~1919年)
晩年のルノワールは、初期の印象派の色彩感覚とアングル様式で学んだ形態の表現を融合させた独自の画風を確立しました。
- 温かみのある赤みがかった色調(珊瑚色)
- 柔らかな筆触による豊満な女性像
- 牧歌的な雰囲気と生命の讃歌
円熟期の代表作『ピアノに寄る少女たち』(1892年)は、フランス政府に買い上げられ、ルノワールの評価が確立した証となりました。

出典:Wikipedia
ルノワールの多彩な画題と表現
人物画・肖像画
ルノワールは「人物画の画家」とも称され、特に女性の美しさを表現することに長けていました。注目作品に『シャルパンティエ夫人とその子どもたち』(1878年)や『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』(1880年)などがあります。

出典:Wikipedia
風景画と静物画
ルノワールの風景画は、モネやシスレーとは違って、ほとんどの作品に人物が登場します。『アルジャントゥイユの帆船』(1874年)や『セーヌ川の橋』(1879年)などでは、明るい光に満ちた風景の中で人々が生き生きと描かれており、自然と人間の調和を感じることができます。初期の作品では印象派ならではの筆触分割の技法を使い、光と色の効果を巧みに表現しています。
静物画では特に花の絵が多く、豊かな色彩と自由な筆づかいが特徴です。ルノワールにとって花は、気軽に描ける題材であると同時に、さまざまな技法や色使いを試すための絶好の実験場でもありました。『春の花束』や『バラ』といった作品からは、鮮やかな色彩感覚と生命への賛美が伝わってきます。
モネとルノワール – 印象派の二大巨匠の違い
ルノワールとモネは親密な友人であり、印象派運動の中心人物でしたが、作風には明確な違いがありました。
1869年にセーヌ川沿いのラ・グルヌイエールで二人が同じ風景を描いた作品を比較すると、モネが水面の光と影のきらめきを強調したのに対し、ルノワールは人物の自然な表情や動きを重視しています。
モネが自然風景の中の光の変化を追求したのに対し、ルノワールは人物表現、特に女性の肌の質感を描くことに情熱を注ぎました。この違いは、ルノワール作品の価値を理解する上で重要な視点となります。
国立西洋美術館やポーラ美術館など、日本国内の美術館でもモネとルノワールの作品を見ることができますので、機会があれば二人の画風の違いを実際に見比べてみてはいかがでしょうか。
ピエール=オーギュスト・ルノワール作品の買取相場・実績
※買取相場価格は当社のこれまでの買取実績、および、市場相場を加味したご参考額です。実際の査定価格は作品の状態、相場等により変動いたします。
田園のダンス

マルセイユ港:Port de Marseille

2人の裸婦

ピエール=オーギュスト・ルノワールの作品の査定・買取について、まずはお気軽にご相談ください。
ピエール=オーギュスト・ルノワールの作品を高値で売却するポイント
来歴や付帯品・保証書
来歴や付帯品:購入先の証明や美術館に貸出、図録に掲載された作品等は鑑定書が付帯していなくても査定できる場合があります。
保証書:購入時に保証書が付帯する作品もあるので大切に保管しましょう。
贋作について
ここ数十年のインターネットや化学技術の向上により、著名作家の贋作が多数出回っています。
ネットオークションでは全くの素人を装い、親のコレクションや資産家所蔵品等の名目で出品し、ノークレームノーリターンの条件での出品が見受けられます。
落札者は知識がないがために落札後のトラブルの話をよく聞きます。お手持ちの作品について「真贋が気になる」「どの様に売却をすすめるのがよいか」等、お困りごとがあればご相談のみでも承っております。
油彩画(額)
状態を良好に保つ為の保管方法
油絵は主に布を張ったキャンバスと言われるものに描かれています。他にも板に直接描かれた作品もあります。油絵の具は乾燥に弱く、色によってはヒビ割れ目立つ作品が見受けられます。また、湿気によりカビなどが付着しやすく、カビが根深い場合は修復困難となってしまいます。高温多湿を避け、涼しい場所に飾りましょう。また箱にしまったままも湿気やすい為、最低でも年に2回は風を通すようにしましょう。
修復方法
油彩画修復の専門店にお願いすることが1番です。下手に自身で手を入れると、返って悪化するケースもあります。
版画
共通事項(状態を良好に保つ為の保管方法)
版画には有名画家が直接携わり監修した作品も多くあります。主に版画作品下部に作家直筆サインとエディション(何部発行した何番目の作品であるか)が記載されています。
主に紙に刷られており、湿気や乾燥に弱いです。また直射日光が長期間当たると色飛びの原因になります。掛ける場所・保管場所には十分注意しましょう。
リトグラフ
石版画とも言われ、ヨーロッパの歴史では古くから用いられてきました。日本でも昭和から活発に使用され、各地にリトグラフ専門の工房が存在します。
ピエール=オーギュスト・ルノワールについての補足情報
日本におけるルノワール評価と市場価値
日本では1920年代からルノワールの人気が高まり、大原孫三郎や松方幸次郎などの実業家が優れたコレクションを形成しました。日本人コレクターに特に好まれるのは、晩年の柔らかな色彩の作品です。
バブル経済期には、1990年に齊藤了英氏が『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』を7800万ドルで落札するなど、日本企業や美術館による高額購入が相次ぎました。
近年のオークション市場では、ルノワールの油彩作品は安定した高い評価を得ており、特に来歴が明確で展覧会歴のある作品は高値で取引されています。日本市場では肖像画よりも風景画や静物画の人気が高い傾向があります。
国内外の美術館で見られるルノワールの名作
ルノワールの作品は世界中の主要美術館に所蔵されており、所蔵作品を実際に見ることは、ルノワール芸術の理解を深め、所有作品の参考にもなります。
日本国内の所蔵美術館情報
- 国立西洋美術館(東京):『アルジェリア風のパリの女たち』(1872年)など
- アーティゾン美術館(東京):『すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢』(1876年)など
- ポーラ美術館(神奈川県・箱根):『レースの帽子の少女』(1891年)など
- 京都国立近代美術館:『母子像』(1916年)
- 大原美術館(岡山県):『泉による女』(1914年)
- ひろしま美術館:『パリ、トリニテ広場』(1875年)など
世界各国の主要美術館
- オルセー美術館(パリ):『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』など
- メトロポリタン美術館(ニューヨーク):『シャルパンティエ夫人とその子どもたち』
- フィリップス・コレクション(ワシントンD.C.):『舟遊びをする人々の昼食』
特別展や企画展の情報は、各美術館の公式ウェブサイトや美術専門雑誌で入手できます。大規模な回顧展は、ルノワール作品の市場価値に影響を与えることがあります。
ルノワールの子息たちの活躍
ルノワールには3人の息子がおり、それぞれが芸術分野で活躍しました。
次男のジャン・ルノワール(1894-1979)は20世紀を代表する映画監督となり、『大いなる幻影』(1937年)などの傑作を残しました。1962年に父親についての回想録『わが父ルノワール』を出版し、画家としてだけでなく一人の人間としてのルノワール像を伝えています。
長男のピエール・ルノワール(1885-1952)はフランスで活躍した俳優であり、三男のクロード・ルノワール(1901-1969)は陶芸家として成功を収めました。
彼らの活躍は、ルノワールの芸術が映画や陶芸など様々な表現形態に影響を与えたことを示しており、ルノワール作品の文化的価値をさらに高めています。
まとめ
ピエール=オーギュスト・ルノワールは、印象派を代表する「女性美の画家」として知られ、その明るく温かみのある色彩と生命力あふれる表現は今なお多くの人々を魅了しています。彼の作品は、初期の光と色彩を追求した印象派時代、形態と線を重視したアングル様式時代、そして両者の良さを融合させた円熟期と、興味深い変化を見せながらも一貫して美しさと喜びを追求したものでした。
明るく温かみのある色彩と生命力あふれる表現で描かれたルノワールの作品は、美術品市場においても安定した評価と高い価値を保持しており、1990年代以降、国際的なオークションで高額な落札例が確認されています。
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