2024.08.20
墨と色彩で織りなす静謐な日本画 田渕俊夫
青々とした田園風景と民家が数軒立ち並ぶ風景画。淡い色合いの本作品を観ると自然と心が穏やかになります。決して色彩を多くは使っていませんが、グラデーションと墨の濃淡を生かした作風が人気の日本画家、田渕俊夫を今回はご紹介します。
田渕俊夫は1941年に東京都江戸川区小岩に生まれました。1965年に東京藝術大学美術学部日本画科を卒業。1967年同大学院日本画専攻修了。1995年からは東京藝術大学教授、1996年より日本美術院評議員となり2005年に東京藝術大学理事・副学長、2006年に日本美術院理事に就任。現在では日本美術院同人・代表理事(理事長)および東京藝術大学名誉教授を務めました。その他では2019年、文化功労者顕彰。2022年、旭日中綬章受章をしています。
色彩と墨
初期頃の田渕の絵の特徴は、線1本1本を繊細に描く筆使いにあり、全体的に明るい色使いの作風でしたが、画業を続ける内に墨一色の作品を描き始めるようになります。墨一色で描き上げた繊細な風景画は、観る人がその色彩を想像でき、また見方によって印象が異なる不思議な感覚に陥ります。
自己流の絵を
院展にて初入選をした翌年には『青木ヶ原』で再び入選をしました。『青木ヶ原』というこの作品が田渕の描く絵の方向性に転機をもたらしたと言われています。きっかけは出品の際でした。とある先生から「院展は色を使わないと評価されない」とのアドバイスを受けます。しかし田渕は色ではなく線だけで表現することを諦めず、自己を突き通し出品し、その作品が評価を受けたのでした。学生時代はその才能がなかなか認められず苦労した田渕でしたが、自身の感性を大切に、諦めずに絵を描き続け、繊細な筆使いで人々を魅了する作品を数々描きあげました。
墨の襖絵
2008年10月に田渕が制作した襖絵60面が完成し真言宗智山派総本山・智積院(京都市東山区)の講堂に奉納されました。春夏秋冬をテーマとした咲き誇るさくらやなびき揺れるススキ、雪山などを墨の濃さだけで表現した田渕らしい作品です。眺めていると実際に動き出しそうな感覚に陥ると共に、絵画の可能性を追求する姿に今後の展開に期待が高まります。
◆真言宗智山派 総本山智積院のHPにてなんとVRで作品を観る事ができます。