2025.10.07
色と線で歩き出す、ジュリアン・オピーの世界
ユニクロのTシャツや街のスクリーンで、シンプルな人物のイラストを見かけたことはありませんか。輪郭線と明るい色だけで描かれた姿なのに、どこか親しみやすくて目を引く。その作品の作者こそ、イギリスの現代美術家ジュリアン・オピー(Julian Opie)です。
オピーの作品は、美術館にとどまらず日常の空間に現れます。通りすがりにふと目にするだけで、アートとの小さな出会いが生まれる。そんな作品が2025年の大阪・関西万博でも披露され、さらなる注目が集まっています。
彫刻から出発した経歴と独自のスタイル
1958年にロンドンで生まれたオピーは、現在も同地を拠点に活動しています。学生時代にロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで美術を学び、1980年代に頭角を現しました。当初は鉄や木を使った彫刻を制作していましたが、次第に線と色を主体に人物や風景を描くスタイルへと移行。1990年代以降は「歩く人々」や「動く肖像画」といった代表的な作品を数多く発表しました。
ぱっと見は、駅の案内板に描かれるピクトグラムのように一見単純です。でもよく見ると、髪の毛の流れや体の傾きといった細部には特徴が残されており、見る人に「これは誰だろう」と想像させる余地があります。余分を削ぎ落としながらも個性を残す。その絶妙なバランスが、シンプルなのに忘れられない理由なのかもしれません。
日本美術との出会いと影響
オピーの線や色づかいには、日本の浮世絵の影響も感じられます。本人が歌麿や広重、北斎といった浮世絵を収集していることも知られており、フラットな色面やリズム感のある線にはその感覚が響いています。
日本での展示も印象的です。東京・GINZA SIXの吹き抜け空間を飾った「Marathon. Women.」は、ショッピングの風景とアートを一体化させました。LEDを使った映像作品では、画面の人物が歩き出した瞬間に現実とアートの境界が消えていくような感覚を与えてくれます。
世界に広がるコレクション
オピーの作品は、ロンドンのテート・ギャラリーやニューヨーク近代美術館(MoMA)、ナショナル・ポートレート・ギャラリーなど、世界の主要な美術館に収蔵されています。それだけでもすごいことですが、彼の表現は美術館にとどまりません。渋谷PARCOでは「歩く人々」シリーズが自動ドアを彩り、イギリスの人気バンド「ブラー」のアルバムジャケットやユニクロUTのデザインにも登場しています。さらに、2025年の大阪・関西万博では「People 14.」が公開され、GINZA SIXの吹き抜け空間では大規模展示も行われました。
街角で偶然出会える作品もあれば、美術館でじっくり鑑賞できる作品もある。オピーのアートは、まさに日常の中に自然に溶け込む存在です。
「どこかで見たことがある」──そんな親しみやすさと、見るたびに新しい発見がある奥行き。オピーの作品はその両方をあわせ持っています。街を歩いていてふと出会ったとき、美術館で立ち止まったとき、その瞬間に、日常がアートに変わる。
日常とアートをつなぎ、時代の空気とともに進化していくからこそ、オピーは今も特別な存在として世界中で愛され続けているのでしょう。