作家・作品紹介

静寂に宿る魂 ― 画家・古吉弘のリアリズム

古吉弘1

まるで写真のように正確――それでいて、見るほどに心の奥を静かに揺さぶる。古吉弘(ふるよし ひろし)の絵には、単なる写実を超えた精神性があります。
その魅力は、卓越した描写力と詩的な空気感の両立にあります。一見、静かで控えめな絵なのに、なぜか目が離せない。彼の作品には、視線の奥で何かが「語られている」感覚があるのです。

写実に宿る静けさと精神性

1959年、広島に生まれた古吉は、京都芸術短期大学で油画を学び、在学中に画家・青木敏郎に師事しました。日本の抽象表現が主流だった時代に、あえて写実を追求するという選択は、時代に逆行する勇気ある道でした。それでも彼は「絵画の本質は深く見ることにある」と信じ、イタリア・フィレンツェでルネサンス絵画と出会い、確信を深めます。
古吉の人物画には、静けさと緊張感が共存しています。少女や子どもたちがただ佇む姿を描きながらも、空気の密度や時間の層が画面から立ち上がってくる。色数は抑えられ、繊細な光の階調や布の質感、肌の透明感が、見る者の内面を静かに揺さぶります。語られない感情が確かに存在する、そんな「無言の対話」が作品に宿っています。
幻想と現実の間を漂うような構図も特徴です。まるで物語の一場面を切り取ったような情景が、観る人の想像力を引き込み、感情の奥深くに語りかけてきます。古吉の代表的な図柄である《RYAN》では、アンティークな衣装に身を包んだ青年が登場します。背景の壁紙も精妙に描きこまれ、まるで時間が止まったかのような空間が広がります。物語を語らずとも想像させる構成力こそ、古吉の魅力のひとつです。


古吉弘-ryan

評価と継承 ― 世界に響く静かな衝撃

古吉の写実表現は、国内外で確かな評価を得ています。2018年の4月にはロンドン・クリスティーズに出品された2人の少女と背景の棚に並んだ人形を精密に描いた、33.3 x 22.9 cmの油彩作品「Layla and Emelia」が7,000 – 10,000 GBPでの予想落札価格に対して、買い手の手数料を含めた価格で97,000(USD)、当時のレートで1,000万円以上の高額で落札されるなど、作品は世界の舞台でも注目されています。
また彼の描写力は、同時代の写実画家たちと比べても非常に特徴的です。たとえば、山本大貴の人物表現が身体性や構造の美に重きを置いているのに対し、古吉の作品は空間や感情の「間(ま)」を織り込む表現に長けています。中島健太がストーリー性や色彩の鮮やかさで魅せるのに対し、古吉は沈黙と抑制の中に強さを見出します。同じ写実でも、それぞれが異なる「人間の見方」を提示しており、古吉のアプローチはその中でも特に精神性に重きを置いたものだと言えるでしょう。
彼は自身の技法や思考をSNSや講座で積極的に発信し、若手画家たちに影響を与え続けています。写実の技術だけでなく、「見る」「感じる」ことを大切にする姿勢そのものを次世代に伝えている点が印象的です。彼の存在は、現代の写実絵画を支えるだけでなく、未来をつくる種にもなっています。
古吉弘の作品は、美術館やギャラリーで静かに輝く芸術であると同時に、所有する人にとっては日常に深い対話をもたらす存在です。
見ることの豊かさ、感じることの尊さを静かに教えてくれる――その価値は、これからもますます広がっていくでしょう。

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