吉田博作品の相場・価値を解説|ダイアナ妃も愛した新版画界の巨匠
- 新版画
はじめに
「96度摺り」の超絶技巧で知られる版画家・吉田博(よしだ ひろし)。その名前からは新版画や山岳画の名手というイメージが連想されるのではないでしょうか。
吉田博は、明治から昭和にかけて活躍した日本の版画家で、洋画の技法と伝統的な木版画技術を見事に融合させた革新的な作品群で知られています。ダイアナ妃やフロイトなど世界の著名人に愛され、現在も国際的なオークション市場で高い評価を受け続けています。
今回は、そんな吉田博の生涯と作品の魅力をご紹介します。作品の価値や相場についても解説しておりますので、吉田博作品をお持ちの方、売却をご検討の方はぜひ最後までお読みください。
※新版画:明治時代末期から昭和初期にかけて興った版画運動。伝統的な浮世絵の技法に近代的な感覚を取り入れた新しい表現様式。

吉田博とは?
新版画運動の中心人物
福岡県久留米市に生まれた吉田博(1876年)は、幼い頃から絵筆に親しんで育ちました。17歳で故郷を離れ東京に出た博は、小山正太郎の不同舎で洋画の基礎を学びます。持ち前の才能と努力により明治期の洋画界で着実に地位を築いていきましたが、人生の大きな転機は40代半ばに訪れました。
それは版画との出会いでした。1920年、44歳の時に渡邊版画店から初の木版画作品を発表すると、その革新的な表現は大きな注目を集めます。これが新版画運動の重要な転換点となり、博は川瀬巴水、伊東深水と並んで新版画界の巨匠として歩むことになったのです。
従来の浮世絵とは全く異なるアプローチで版画制作に取り組んだ博。彫師や摺師たちとの信頼関係を大切にしながら、洋画で培った写実的な技法と伝統的な木版画技術を見事に融合させていきました。その結果生まれた作品群は、まさに芸術の新境地を開拓したものといえるでしょう。

世界を描いた国際的版画家
吉田博の足跡をたどると、その行動力の凄さに驚かされます。23歳でアメリカの地を初めて踏んだ博は、その後まるで地球をキャンバスにするかのように世界各地を旅し続けました。アメリカ、ヨーロッパ、インド、東南アジア…当時の日本人にしてみれば想像もつかない遠い異国の風景が、博の手によって美しい版画作品として蘇ったのです。
特にアメリカでの評価は目覚ましいものがありました。1920年代には現地のコレクターたちが博の作品を競って求めるほどの人気ぶりでした。博の作品が愛された理由は、単に珍しい風景を描いているからではありません。旅先で出会った人々の暮らしや文化への深い愛情と理解が、作品の随所に込められていたからなのです。
このような国際的な視野を持った日本人芸術家は、当時としては非常に珍しい存在でした。博の作品は、まさに文化の架け橋としての役割も果たしていたといえるでしょう。
山岳画家としての確固たる地位
博は「山の画家」と呼ばれるほど、日本各地の山々を愛し続けました。特に日本アルプスの雄大な景観を描いた作品群は、見る者の心を奪う美しさで今も愛され続けています。
博の山岳画の特徴は、単なる風景の再現にとどまらず、山の持つ神秘性や崇高さを見事に表現していることです。朝もやに包まれた神秘的な山並み、夕日に染まって黄金に輝く峰々、雪化粧をまとった峻厳な頂き…時間や季節とともに刻々と変わる山の表情を、博は見事に版画に込めました。
実は博自身、大の登山愛好家でもありました。実際に自分の足で山を歩き、肌で感じた山の息づかいが作品に反映されているからこそ、博の山岳画には他では味わえない迫力と説得力があるのです。中でも「劔山の朝」は博の山岳画を代表する傑作として、現在でも多くのファンから愛され続けています。

吉田博の作品の魅力や特徴
代表的シリーズ作品の特色
吉田博の作品は多くのシリーズに分類され、それぞれに独特の魅力があります。代表的なシリーズとその特色をご紹介しましょう。
主要シリーズとその特徴:
- 瀬戸内海集(帆船シリーズ):同じ構図で6つの異なる時間帯を表現した革新的なシリーズ
- 桜八題:日本各地の桜の名所を描いた春の風情あふれる作品群
- 日本アルプス十二題:博の山岳画の集大成として位置づけられる傑作シリーズ
- 冨士拾景:様々な角度から富士山の美しさを捉えた日本的主題の代表作
特に瀬戸内海集は、博の「別摺り」(※)技法の代表例として知られています。同じ版木を使いながら、摺りの技法を変えることで朝、昼、夕方、夜など異なる時間帯の光の変化を表現したこのシリーズは、版画技術の可能性を大きく広げた画期的な作品群といえるでしょう。
※別摺り:同じ版木を使用しながら、摺りの技法や色彩を変えることで異なる表現を生み出す技法。

海外風景シリーズの国際性
吉田博の作品の中でも特に注目すべきは、海外の風景を題材とした作品群です。20世紀前半という時代背景を考えると、これほど広範囲にわたって海外の風景を描いた日本人画家は他に例を見ません。
アメリカシリーズでは、グランドキャニオンやナイアガラの滝といった雄大な自然から、ニューヨークの摩天楼まで描かれています。インド・東南アジアシリーズでは、タージマハルやアンコールワットなどの歴史的建造物を題材とした作品が制作され、当時の日本人にとっては非常に珍しい異国の風景を紹介する役割も果たしていました。
96度摺りに代表される超絶技巧
「陽明門」という作品をご存知でしょうか。この作品こそが、吉田博の名前を版画史に刻んだ作品です。なんとこの一枚の版画を完成させるために、博は96回もの摺りを重ねました。通常の版画が10回程度の摺りで仕上がることを考えると、その異常なまでのこだわりぶりがお分かりいただけるでしょう。

96度摺りが生み出した奇跡:
- 色彩の魔術:96回の摺り重ねにより、絵の具が織りなす微細な色彩変化を実現
- 質感の再現:木材、金属、布地まで、まるで触れるかのような質感表現
- 光と影の詩:日光東照宮陽明門の荘厳さを、版画で完璧に再現
この驚異的な技法が実現できたのは、博の完璧主義と、彫師・摺師たちとの信頼に満ちた協力関係があってこそでした。博は版画という表現媒体の可能性を極限まで追求し、油画に匹敵する表現力を持つ作品の創造を目指していました。96度摺りは単なる技術的な挑戦ではありません。版画芸術の新たな可能性を切り拓いた、まさに芸術史に残る偉業だったのです。
光と大気の表現技法
吉田博の作品を見ていると、まるでその場にいるかのような錯覚に陥ることがあります。その秘密は、博が版画に込めた光と大気の表現にあります。洋画で身につけた光の理解を版画技法に応用することで、従来の日本の版画では不可能とされていた繊細な光の効果を見事に実現したのです。
朝の澄んだ空気感、昼間の力強い太陽光、夕暮れの優しい陽だまり、月夜の幻想的な明かり…博の作品には、それぞれの時間が持つ独特の光の質感が生きています。これが「別摺り」技法と組み合わされることで、同じ風景でも時間の違いによる表情の変化を楽しめる作品群が生まれました。
さらに驚くべきは、目に見えない大気の状態まで表現していることです。山間にたちこめる霧、海上に漂う靄、雨上がりのしっとりとした空気…これらを色彩と摺りの巧みな技法で表現することで、博の作品には詩的な情感が宿っているのです。西洋の写実主義と東洋の情緒的表現を見事に融合させた博だからこそ実現できた、まさに独創的な芸術世界といえるでしょう。

吉田博作品の買取相場・実績
※買取相場価格は当社のこれまでの買取実績、および、市場相場を加味したご参考額です。実際の査定価格は作品の状態、相場等により変動いたします。
瀬戸内海集「帆船 朝」

雨後の穂高山

猿澤池

当社では、これまでに吉田博作品を多数取り扱っており、豊富な査定・買取実績がございます。作品の評価や真贋のご相談など、お気軽にご相談ください。
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吉田博の作品を高値で売却するポイント
来歴や付帯品・保証書
来歴や付帯品:購入先の証明や美術館に貸出、図録に掲載された作品等は鑑定書が付帯していなくても査定できる場合があります。
保証書:購入時に保証書が付帯する作品もあるので大切に保管しましょう。
贋作について
ここ数十年のインターネットや化学技術の向上により、著名作家の贋作が多数出回っています。
ネットオークションでは全くの素人を装い、親のコレクションや資産家所蔵品等の名目で出品し、ノークレームノーリターンの条件での出品が見受けられます。
落札者は知識がないがために落札後のトラブルの話をよく聞きます。お手持ちの作品について「真贋が気になる」「どの様に売却をすすめるのがよいか」等、お困りごとがあればご相談のみでも承っております。
版画
共通事項(状態を良好に保つ為の保管方法)
版画には有名画家が直接携わり監修した作品も多くあります。主に版画作品下部に作家直筆サインとエディション(何部発行した何番目の作品であるか)が記載されています。
主に紙に刷られており、湿気や乾燥に弱いです。また直射日光が長期間当たると色飛びの原因になります。掛ける場所・保管場所には十分注意しましょう。
木版画
板に彫刻し、絵を描いた後に凸部分に色を塗り、紙に写しとる技法です。
吉田博についての補足情報
新版画界における位置づけ
吉田博は川瀬巴水、伊東深水と並んで新版画界を代表する巨匠として知られています。三人はそれぞれ異なる個性を持ちながら、新版画運動を牽引した立役者として美術史に名を刻んでいます。
川瀬巴水が叙情的な風景画で「旅情詩人」と呼ばれ、伊東深水が美人画の分野で革新を起こしたのに対し、吉田博は国際的な視野と超絶技巧で新版画の可能性を大きく広げました。特に博は、海外での評価が高く、新版画を世界に広めた功労者として位置づけられています。
博と他の二人との違いは、その制作スタイルにもあります。博は自らプロデューサーとなって作品制作全体を統括する「自摺」(※)の手法を多用し、この制作スタイルが博の作品に独特の完成度をもたらしています。
※自摺:作家自身が制作工程全体を管理し、限定的に摺られた版画。通常の商業版画より希少価値が高い。
著名人に愛された作品たち
吉田博の作品は、生前から多くの著名人に愛されてきました。中でも有名なのが、イギリスのダイアナ元皇太子妃のコレクションです。ダイアナ妃は日本文化に深い関心を持っており、特に吉田博の繊細で美しい風景画を愛好していました。妃のコレクションには「瀬戸内海集」や「富士山」シリーズの作品が含まれていました。
精神分析学の父として知られるフロイトも吉田博の作品を高く評価していたことで知られています。これらの事例は、吉田博の作品が単なる装飾品ではなく、見る者の精神性に深く訴えかける力を持っていることを示しています。

出展:Wikipedia
現代における再評価の動き
近年、吉田博の作品に対する評価は国際的にさらに高まっています。2021年には東京都美術館で「没後70年 吉田博展」が開催され、多くの来場者が博の作品の素晴らしさを再認識する機会となりました。
海外においても、博の作品への関心は高まり続けています。国際的なオークション市場でも博の作品は安定した人気を保ち、特に初期の自摺作品は高額で取引されています。
もしお手元に吉田博の作品をお持ちの方は、その価値を正確に知るためにも、専門の鑑定士による査定を受けてみてはいかがでしょうか。
まとめ
新版画界の巨匠として、世界中で愛され続ける吉田博。96度摺りという超絶技巧から生まれた「陽明門」をはじめ、山岳風景、海外風景など多彩な作品群は、洋画で培った写実的技法と伝統的な木版画技術を見事に融合させた傑作です。
ダイアナ妃やフロイトといった著名人に愛され、現代においても国際的な再評価が進む吉田博作品は、美術館に展示されるだけでなく、今なお美術市場で高い評価と価値を保ち続けています。
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