田崎広助の作品価値と買取相場|「朱富士」に宿る情熱と画業の軌跡

  • 山岳画家

はじめに

燃えるような赤で描かれた、荘厳な富士の姿。あるいは、荒々しい山肌をのぞかせる、雄大な阿蘇の山容。これらの作品を見たとき、多くの人が洋画家・田崎広助(たさき ひろすけ)の名を思い浮かべるのではないでしょうか。

田崎広助は、西洋から伝わった油彩という技法を駆使しながら、その生涯をかけて日本の山の「魂」とも言うべき本質を描き出した、日本近代洋画を代表する『山岳画家』です。その功績は高く評価され、1975年には文化勲章を受章しました。

この記事では、田崎広助がどのようにして唯一無二の画風を確立したのか、その生涯と作品の魅力を深く掘り下げていきます。お手元に田崎広助の作品をお持ちの方、価値や買取価格について知りたいとお考えの方は、ぜひ最後までお読みください。

赤富士
赤富士

田崎広助とは?

故郷・八女の自然と画家への憧れ

福岡県八女市の風景

田崎広助(本名:廣次)は、1898年(明治31年)に豊かな自然に恵まれた福岡県八女郡北山村(現・八女市)に生まれました。彼の芸術的衝動の芽生えを示す有名な逸話があります。3歳の頃、母が嫁入り道具として持ってきた高価な桐箪笥に、金火箸で模様を刻み込んだのです。母を喜ばせたい一心での行動でしたが、この出来事は彼自身が「処女作」と語る、画家人生の原点となりました。

彼の芸術の根幹には、故郷の雄大な自然との深いつながりがあります。特に、片道約8キロメートルもの道のりを裸足で中学校に通ったという経験は、単なる苦労話ではありません。この日々が彼の強靭な健脚を鍛え上げ、後年、険しい山々に分け入って創作活動を行う「山岳画家」としての礎を築いたのです。彼の作品が持つ圧倒的なリアリティと迫力は、こうした身体的な経験に裏打ちされた、自然との真摯な対話から生まれています。

当初、画家を志して美術学校への進学を望みますが、父の反対に遭い、福岡師範学校へ進学し教員の道へ進むことになります。しかし、画家への情熱は消えることなく、彼の人生を大きく動かしていくのでした。

師・坂本繁二郎、安井曾太郎との出会いと上京

師・坂本繁二郎

小学校で教鞭をとりながらも、同郷の画家・坂本繁二郎らの活躍に触発され、画家になる決意を固めた田崎は、ついに上京します。このとき、父から勘当されるという厳しい試練に直面しますが、彼の決意は揺るぎませんでした。

上京後は、近代洋画の巨匠である坂本繁二郎や安井曾太郎に師事し、関西美術院にも通いながら本格的に絵画を学びます。この時期に培われた西洋画の確かな基礎技術が、後に彼が独自の画風を確立するための重要な土台となりました。そして1926年(大正15年)、権威ある二科展に初入選を果たし、画家として確かな一歩を踏み出したのです。

パリ留学で得たものと、見出した「東洋の心」

1932年、田崎はさらなる飛躍を求めてパリへ渡ります。留学中の1933年には、フランスの伝統ある公募展「サロン・ドートンヌ」(※)に入選するという快挙を成し遂げました。当時無名だった日本人画家の入選は現地でも大きく報じられ、彼の才能が国際的に認められた瞬間でした。

しかし、このヨーロッパでの成功体験が、彼の芸術に最も重要な転機をもたらします。セザンヌをはじめとする西洋美術の粋に触れる中で、彼は西洋の模倣に終わるのではなく、かえって自らが立つべき場所、すなわち日本や東洋の美の本質、彼が言うところの「東洋の心」の重要性を痛感したのです。この逆説的な発見こそ、田崎芸術の核となる「西洋の技法と日本の感性の融合」を生み出す原動力となりました。

※サロン・ドートンヌ:フランス語で「秋のサロン」を意味する、パリで毎年秋に開催される歴史ある美術展覧会。革新的な芸術家たちが集う登竜門として知られています。

「一水会」の創立と「山岳画家」としての地位確立

1935年に帰国した田崎は、1939年に石井柏亭や安井曾太郎らとともに、新たな美術団体「一水会」(※)の創立に参加します。写実的な表現と技術を重んじる一水会は、彼の芸術理念と合致する活動の場となりました。

この頃から、彼の創作テーマは日本の山々へと明確に収斂していきます。故郷の自然で育まれた身体感覚と、パリで見出した「東洋の心」を胸に、彼は日本の山々の魂を描き出すことに生涯を捧げることを決意します。こうして、彼は日本を代表する「山岳画家」としての不動の地位を確立していったのです。

※一水会:写実を基本とした表現を重んじる、日本の代表的な美術団体の一つ。

山岳の画家 田崎広助

文化勲章受章に至るまでの受賞歴と評価

田崎広助の功績は、数々の栄誉によって証明されています。1961年の日本芸術院賞受賞を皮切りに、1968年には勲三等瑞宝章を受章。1973年から74年にかけては、ブラジルで開催された日伯現代美術展の功績により、現地でも高く評価されブラジル政府からコメンダドール章、オフィシエ章受章を授与されるなど、その名声は国際的にも広がりました。

そして1975年(昭和50年)、画家として最高の栄誉である文化勲章を受章します。また、日展の審査員や理事を歴任するなど、彼は単なる創作者に留まらず、戦後日本の美術界を牽引する中心的な存在でもありました。こうした輝かしい経歴は、彼の作品が持つ揺るぎない価値を物語っています。

田崎広助の作品の魅力や特徴

なぜ山を描いたのか?―日本の火山に見た「重厚さ」

田崎広助がなぜこれほどまでに山、特に火山に惹かれたのか。その答えの鍵は、イタリア留学中のある経験にあります。彼はナポリ近郊のヴェスヴィオ火山を見て、日本の浅間山と形が似ていると感じました。しかし、彼は日本の火山に、ヴェスヴィオにはない特別な性質―「重厚さ」を見出したのです。

この「重厚さ」とは、単に山が大きい、ごつごつしているといった物理的な特徴を指す言葉ではありません。それは、大自然が持つ威厳、神秘性、そして生命の根源的なエネルギーが凝縮されたような、精神的な深みとでも言うべきものです。田崎は、西洋画の技法を用いながら、この日本独自の自然観、精神性を表現しようとしました。彼の絵画は、風景を描いたものでありながら、自然の魂を描き出す哲学的な営みでもあったのです。

浅間山
浅間山

西洋の技法と日本の感性の融合した独自の画風

田崎広助の作品を一目で見分けることができる独自の画風は、まさに「西洋の技法と日本の感性の融合」という言葉で表すことができます。その特徴は、以下の点に集約されます。

  • 力強いマチエール(※): 絵の具を厚く塗り重ねて、山の岩肌のような物質的な質感を生み出す西洋近代絵画の技法。
  • 日本画的な構成: 遠近法を意図的に抑制し、対象の輪郭線をはっきりと描くことで、平面的で装飾的な画面を作り出す。

このスタイルは、パリで「東洋の心」を見出した彼の経験が直接的に結実したものです。西洋の油彩という画材を使いながら、描かれる世界観は極めて日本的。この唯一無二の表現こそが、田崎作品の大きな魅力であり、高い芸術的価値の源泉となっています。

※マチエール:フランス語で「素材」や「材質」を意味する言葉で、美術用語としては絵の具の盛り上がりや筆遣いによって生まれる絵肌の質感や表情を指します。

快晴の阿蘇「阿蘇二景」より
快晴の阿蘇「阿蘇二景」より

代表作「

朱富士
朱富士

」に込められた情熱と生命力

田崎広助の代名詞ともいえるのが、晩年に好んで描いた「朱富士(あかふじ)」です。赤富士とは、夏から初秋にかけての早朝、朝日を浴びて富士山が赤く染まる稀有な自然現象を指します。田崎はこの一瞬の輝きを、力強い筆致と燃えるような色彩でキャンバスに描き留めました。彼の描く朱富士は、単なる風景の再現ではなく、大自然の生命力と画家の内なる情熱が一体となった、見る者に強烈なエネルギーを与える作品です。

この「朱富士」は、彼の代表作であると同時に、美術市場において最も人気が高く、高値で取引されるモチーフです。油彩画はもちろん、リトグラフ(※)などの版画作品も数多く制作されています。

※リトグラフ:石版画とも呼ばれる版画技法の一種。油性の画材で描いた石版にインクをのせて刷ることで、繊細な描線や柔らかな濃淡の表現が可能です。

 

「阿蘇の田崎」と呼ばれた理由と阿蘇山シリーズの魅力

「朱富士」と並び、田崎広助の画業を語る上で欠かせないのが阿蘇山です。彼は生涯にわたり阿蘇山を描き続け、その鬼気迫る表現から「阿蘇の田崎」と称されるほどでした。1961年には、『初夏の阿蘇山』『朝やけの大山』などの山岳連作により、日本芸術院賞を受賞しており、阿蘇は彼の名を世に知らしめた重要なモチーフと言えるでしょう。

彼が阿蘇に見たのは、その荒々しい山肌や雄大な姿だけではありませんでした。広大な外輪山に抱かれた阿蘇五岳の姿に、まるで涅槃像が横たわっているかのような精神的なイメージを重ね合わせていたといいます。ここにも、単なる風景画家ではない、自然の奥にある魂を見つめようとする田崎の眼差しがうかがえます。

阿蘇山
阿蘇山

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田崎広助作品の買取相場・実績

※買取相場価格は当社のこれまでの買取実績、および、市場相場を加味したご参考額です。実際の査定価格は作品の状態、相場等により変動いたします。

箱根の富士

買取相場:20~30万円

箱根の朱富士

買取相場:20~30万円

朱富士

買取相場:12~17万円

当社では、これまでに田崎広助作品を多数取り扱っており、豊富な査定・買取実績がございます。作品の評価や真贋のご相談など、お気軽にご相談ください。

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田崎広助の作品を高値で売却するポイント

田崎広助の鑑定機関・鑑定人

来歴や付帯品・保証書

来歴や付帯品:購入先の証明や美術館に貸出、図録に掲載された作品等は鑑定書が付帯していなくても査定できる場合があります。
保証書:購入時に保証書が付帯する作品もあるので大切に保管しましょう。

贋作について

ここ数十年のインターネットや化学技術の向上により、著名作家の贋作が多数出回っています。

ネットオークションでは全くの素人を装い、親のコレクションや資産家所蔵品等の名目で出品し、ノークレームノーリターンの条件での出品が見受けられます。

落札者は知識がないがために落札後のトラブルの話をよく聞きます。お手持ちの作品について「真贋が気になる」「どの様に売却をすすめるのがよいか」等、お困りごとがあればご相談のみでも承っております。

油彩画(額)

状態を良好に保つ為の保管方法

油絵は主に布を張ったキャンバスと言われるものに描かれています。他にも板に直接描かれた作品もあります。油絵の具は乾燥に弱く、色によってはヒビ割れ目立つ作品が見受けられます。また、湿気によりカビなどが付着しやすく、カビが根深い場合は修復困難となってしまいます。高温多湿を避け、涼しい場所に飾りましょう。また箱にしまったままも湿気やすい為、最低でも年に2回は風を通すようにしましょう。

修復方法

油彩画修復の専門店にお願いすることが1番です。下手に自身で手を入れると、返って悪化するケースもあります。

版画

共通事項(状態を良好に保つ為の保管方法)

版画には有名画家が直接携わり監修した作品も多くあります。主に版画作品下部に作家直筆サインとエディション(何部発行した何番目の作品であるか)が記載されています。

主に紙に刷られており、湿気や乾燥に弱いです。また直射日光が長期間当たると色飛びの原因になります。掛ける場所・保管場所には十分注意しましょう。

リトグラフ

石版画とも言われ、ヨーロッパの歴史では古くから用いられてきました。日本でも昭和から活発に使用され、各地にリトグラフ専門の工房が存在します。

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田崎広助についての補足情報

画家の美意識が宿る二つの美術館

八女市田崎廣助美術館

田崎広助の芸術世界に深く触れることができる場所として、二つの専門美術館が存在します。一つは、彼がアトリエを構え、浅間山などの創作活動の拠点とした長野県の「田崎美術館」。もう一つは、彼の故郷である福岡県八女市の「八女市田崎廣助美術館」です。

一人の画家の功績を称える美術館が、創作の地と生誕の地の両方に設立されているという事実は、彼の芸術が国民的な評価を得ていることの何よりの証拠です。これは、彼の作品が単なる市場の商品ではなく、日本の文化史において重要な資産として位置づけられていることを示しており、その長期的な価値を強く裏付けています。

今なお色褪せない、現代における田崎広助の価値

バブル経済期のような投機的な高騰は落ち着いたものの、田崎広助の作品は同時代の他の画家に比べて、現在も非常に安定した高い評価を維持しています。特に人気の「朱富士」や「阿蘇山」の油彩画は、数十万円から取引されることも珍しくありません。

このように、田崎広助の作品は、その芸術的価値と市場価値の両面で、今なお高く評価されています。彼の作品価値は、保存状態や制作時期、モチーフによっても大きく変動するため、お手元の作品が持つ現在の価値を正確に知ることは非常に重要です。もしお手元に田崎広助の作品をお持ちでしたら、その真の価値を知るために、一度専門の鑑定士による査定を受けてみてはいかがでしょうか。

まとめ

西洋の技法と東洋の魂を融合させ、日本の山の荘厳な美しさをキャンバスに刻み込んだ『山岳画家』、田崎広助。その作品は、単なる風景画を超え、大自然への畏敬と画家の情熱が宿る、力強い生命力の賛歌です。

文化勲章という最高の栄誉に輝き、今なお美術市場で高い評価と相場を維持し続ける田崎広助の作品は、日本の美術史における不朽の資産と言えるでしょう。

当社では、あなたの大切な作品の価値を最大限に引き出すべく、丁寧な査定と適切なアドバイスを提供いたします。田崎広助の作品の買取をご検討される際は、ぜひお問い合わせください。

また、LINEからの査定依頼も受け付けています。(スマホで写真を撮って送るだけ!)詳しくは【LINE査定ページ】をご覧ください。

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