作家・作品紹介

伝統を知るからこそ、自由に遊べる 陶芸家・鈴木五郎

鮮やかな緑色の釉薬に、大胆に歪んだ器の形。そして、どこか愛嬌のあるカラスの絵付け。
鈴木五郎の「ロス織部」を見ていると、400年以上前の桃山時代に生まれた織部焼が、まったく新しい焼物になったように感じられます。
近年は伝統的な茶陶だけでなく、自由な形や色を取り入れた現代陶芸にも関心が集まっています。若い作家たちの斬新な作品も魅力的ですが、80代半ばを迎えた鈴木五郎の作品には、それらに負けない大胆さと楽しさがあります。
鈴木は長年、志野や黄瀬戸、織部といった伝統的な焼物を研究してきました。しかし、昔の名品をそっくりに再現することには満足しません。
「人のやらないことをやる」。
その姿勢から生まれたのが、ロス織部や五利部、そして椅子をはじめとする数々のオブジェです。

伝統を知るからこそ、自由に遊べる 陶芸家・鈴木五郎

桃山陶を学び、アメリカで出会った自由な陶芸

鈴木五郎は1941年、愛知県豊田市に生まれました。
16歳で瀬戸の窯業訓練施設に入り、ろくろの扱い方や土、釉薬について学びます。1966年には朝日陶芸展で最高賞を受賞するなど、その実力は若くして認められました。
大きな転機となったのが、1969年から1970年にかけてのアメリカ滞在です。
ロサンゼルスで個展を開き、アメリカの陶芸家たちの作品に触れることとなります。当時のアメリカでは、陶芸を食器や花器としてだけでなく、彫刻や現代美術として扱う動きが広がっていました。
器として使えるかどうかにこだわらず、土で好きな形をつくる。
こうした考え方は、鈴木の制作にも大きな影響を与えたのです。
帰国後は茶碗や花入に加え、大きな壺や皿、椅子の形をしたオブジェなど、制作の幅を広げていきます。
ただし、鈴木が伝統的な陶芸から離れたわけではありません。
志野の白い釉薬、黄瀬戸の温かみのある黄色、織部の鮮やかな緑。それぞれの特徴を理解したうえで、形を大胆に崩したり、異なる技法を組み合わせたりしたのです。


伝統を知るからこそ、自由に遊べる 陶芸家・鈴木五郎

ロス織部とは何か

鈴木五郎を代表するシリーズの一つが「ロス織部」です。
名前の「ロス」は、アメリカのロサンゼルスに由来します。
鈴木はアメリカ滞在中、現地の土を使い、日本の織部焼をもとにした作品を制作しました。これがロス織部の始まりです。
もともと織部焼は、桃山時代に茶人・古田織部の好みを反映して発展した焼物です。
当時の茶碗や鉢には、左右対称ではない形や、大きく歪んだ口縁、幾何学的な文様などが見られます。整った形をよしとするだけでなく、あえて崩した形を面白がるところに特徴があります。
鈴木のロス織部は、その大胆さをさらに押し広げたのです。
器の口が大きく傾いていたり、胴が不規則に膨らんでいたり、鮮やかな色の中にユーモラスな絵付けが施されていたりします。
今回取り上げた作品には、鈴木が好んで描くカラスの姿も見られます。
カラスは黒い線や面で簡潔に描かれ、写実的というより、どこか漫画のような親しみやすさを感じます。
桃山織部の大胆な造形に、アメリカで触れた自由な発想を加える。
ロス織部は、伝統を受け継ぎながらも、鈴木五郎にしかつくれない焼物となったのです。


伝統を知るからこそ、自由に遊べる 陶芸家・鈴木五郎

五利部から陶椅子まで、土で遊ぶ

鈴木の独創性がよく分かるもう一つのシリーズが「五利部(ごりべ)」です。
「五」は鈴木五郎、「利」は千利休、「部」は古田織部から取ったものです。
一つの作品に志野、黄瀬戸、織部などの技法を取り入れ、それぞれの釉薬や土の特徴を生かして制作します。
本来は別々の焼物として知られる技法を、一つの器に組み合わせるところが面白い点です。
釉薬は種類によって溶ける温度や流れ方が異なります。単純に重ねればよいわけではなく、土との相性や焼成方法まで考える必要があります。
伝統技法を十分に身につけているからこそ、こうした組み合わせにも挑戦できるのでしょう。
さらに鈴木は、器の形そのものにもこだわらず、椅子を題材にした作品を数多く制作しています。
たとえば《織部椅子》や《アロハオリベ椅子》などです。
椅子の形をしていても、必ずしも人が座るためのものではありません。脚や背もたれの形を大胆に変え、陶器ならではの重さや質感を生かした彫刻として制作されています。
愛知県陶磁美術館には2001年作《アロハオリベ椅子》、岐阜県現代陶芸美術館には《陶椅子》が収蔵されています。
また、越後妻有の「大地の芸術祭」では《かまど》を発表するなど、茶室や床の間を離れた場所でも作品を展開しています。
鈴木にとって土は、茶碗をつくるためだけの材料ではありません。自由に形を変え、思いついたものを試すことのできる素材なのです。


伝統を知るからこそ、自由に遊べる 陶芸家・鈴木五郎

鈴木五郎の作品はいくらで取引されている?

鈴木五郎の作品は、茶道具から大型のオブジェまで種類が多く、二次流通市場でも価格に幅があります。
茶碗や花入、酒器などは数万円から10万円前後が一つの目安です。
比較的シンプルな黄瀬戸のぐい呑や皿などは、数万円以下の買取価格となる例もあります。
一方、ロス織部や五利部、大型のオブジェなど、鈴木ならではの特徴が強く表れた作品では、数十万円の評価となるものもあります。
同じ織部作品でも、形や絵付け、釉薬の仕上がりによって印象は大きく変わります。特にロス織部では、鮮やかな色彩や大胆な造形、ユーモラスな絵付けなどが見どころとなります。
また、共箱の有無、保存状態、制作年代、展覧会歴なども査定に関わります。
鈴木五郎の場合、単に「茶碗だから」「花入だから」という器種だけでなく、作家独自の表現がどれだけ表れているかも重要な評価ポイントです。
※美術品・工芸品の相場は市場動向や作品の状態、来歴などによって変動します。記載している金額は、この記事を執筆した時点での参考買取価格です。


伝統を知るからこそ、自由に遊べる 陶芸家・鈴木五郎

伝統を守るだけでは終わらない

鈴木五郎は2002年に日本陶磁協会賞を受賞し、長年にわたって現代陶芸の第一線で活動してきました。
その作品を見ると、伝統的な技法を受け継ぐことと、新しいものをつくることは、決して反対ではないと感じます。
志野や黄瀬戸、織部の特徴を知り、土や釉薬の扱いを身につけたうえで、器を歪ませ、技法を組み合わせ、ときには椅子や大きなオブジェまでつくってしまう。
今回のロス織部も、桃山時代の織部焼を知っているからこそ、その大胆な変化を楽しめる作品です。
80代半ばを迎えても、鈴木五郎の作品からは、土を前にして次は何をつくろうかと考える楽しさが伝わってきます。
400年以上続く陶芸の伝統を、自分なりの方法で変え続ける。
そこに鈴木五郎という陶芸家の魅力があるのだと思います。

作家・作品紹介一覧をみる

美術品の売却が初めての方に
「買取の流れ」をご紹介!
全国出張・宅配買取や無料査定も実施中!

買取の流れをみる

アート買取協会で
買取できる美術品

日本画、洋画、現代アートなどの絵画買取から掛軸、陶磁器などの骨董・古美術の買取まで幅広い美術品ジャンルを取り扱っております。
一覧にない美術品も取扱いがございますので、まずはお気軽にご相談ください。

絵画や骨董品、美術品、古美術を売るなら、
買取専門店「アート買取協会」にお任せください!