2025.09.16
Backside works.(バックサイドワークス) ― 「ヒロイン」と共に物語を紡ぐ現代アートの旗手
いま、日本の現代アートシーンで注目を集めるアーティストのひとりが Backside works.(バックサイドワークス) です。広告やデザインのバックグラウンドを持ちながら、アートへと歩みを進めた彼は、ストリートカルチャーやポップカルチャーを独自に取り込み、「かわいい」「かっこいい」といった単純な評価を超えて、鑑賞者と作品との間に特別な関係を築いてきました。顔も本名も性別も年齢も明かさず活動する活動姿勢は、まるでバンクシーを連想させますが、表現はより内省的で静か。観る者を立ち止まらせ、物語を想像させる力に満ちています。

「ヒロイン」と鑑賞者の関係性
Backside works.の作品には、少女をモチーフにした「ヒロイン」がしばしば登場します。匿名性を保ちながらも強い存在感を放ち、鑑賞者の目を捉えて離しません。ここで描かれているのは特定の誰かではなく、観る人自身が物語の主人公となり、作品に登場する少女がその物語に寄り添う「ヒロイン」として存在するという関係性です。単なるキャラクターとしての可愛さではなく、感情を投げかけてくるような普遍性が、Backside works.の最大の魅力といえるでしょう。

サブカルチャーの融合
彼の作品はアニメ、漫画、ストリートアート、グラフィティ、ステッカー文化など、さまざまな要素がミックスされています。その表現は、一枚のキャンバスに描かれた絵画でありながら、まるで漫画やアニメのワンシーンを切り取ったような「瞬間性」を備えており、静止したはずの画面に動きや時間の流れを想像させます。洗練されたモノクロ表現の中に、異なる素材の質感を取り入れることで、都会的な空気感や即興性を感じさせるのも特徴です。
アメリカのポップアートやバンクシーのようなストリートアーティストとの共鳴を感じさせながらも、内省的な静けさを伴っている点が、唯一無二の個性といえるでしょう。

同世代のアーティスト
同世代のアーティストとしてよく比較されるのが、福岡を拠点に活動する KYNE です。KYNEもまた、匿名的な黒髪の女性像をシルクスクリーンで描き出し、都会的でクールなムードを持つ作風で人気を集めています。しかし、Backside works.の作品が「物語性」や「鑑賞者との関係性」を前面に押し出しているのに対し、KYNEの作品はグラフィティの延長線上にあるミニマルな表現に寄っており、アートの持つ静けさや記号性に重きが置かれています。どちらも現代の都市文化と結びついた存在ですが、同じテーマを扱いながらもアプローチの違いによって、まったく異なる印象をに与えてくれます。

企業とのコラボレーション
Backside works.は、美術館やギャラリーにとどまらず、ファッションや日常のシーンへ積極的に作品を広げています。たとえば Levi’s、コンバース、サンリオ、集英社(ジャンプ) といったブランドとのコラボレーションを次々に行い、ファッションや日用品のなかにも作品を浸透させてきました。Tシャツやスニーカーに作品が載ることで、アートは手に届かないものではなく、日常に寄り添う存在へと広がっていきます。これは単なるグッズ展開ではなく、「アートを日常に引き寄せる」試みであり、現代の生活と美術をつなぐ役割を果たしています。
また、版画やステッカーといったエディション作品も展開され、オンライン販売では即完売することも多く、若いコレクターを中心に支持を集めています。
Backside works.の作品を目にすると、ただ「絵を見ている」という感覚を超えて、自分の感情や記憶が重なっていくように感じられます。そこに描かれるヒロインは、特定の誰かではなく、誰にでもなり得る存在です。だからこそ、観る人それぞれの心の奥に眠る物語を呼び起こし、自分だけの意味を見つけさせてくれるのです。
静かなギャラリーのスペースでも、街中に貼られたポスターでも、あるいはTシャツやスニーカーといった身近なアイテムにプリントされた形であっても、Backside works.の作品はそこに小さな物語の入口をつくり出します。アートと日常の境界を軽やかに越えていく点に、彼?彼女?の作品の大きな魅力があります。
今後の活動が国内外でさらに広がっていくことは間違いなく、アートシーンに新しい風を吹き込む存在としてますます目が離せません。