作家・作品紹介

かわいいだけでは終わらない 田島享央己、木彫の系譜

田島享央己の作品には、思わず笑ってしまうような親しみやすさがあります。猫、クマ、パンダ、イカ、タコ、神様のような姿をした小さな像。二頭身にデフォルメされた立ち姿は、キャラクターのようにも見えます。
けれど、よく見ると、ただかわいいだけではありません。少し不機嫌そうだったり、こちらを見透かしているようだったり、どこか毒気がある。何を考えているのか分からない表情のまま、ぽつんと立っている。その静かな存在感が、見る側にいろいろな想像をさせます。
田島の作品が面白いのは、木彫という古くからある技法を使いながら、現代のキャラクター文化やユーモアとも自然につながっているところです。難しい理屈より先に「なんだろう、これ」と近づきたくなる。その入りやすさが、田島享央己の大きな魅力です。


かわいいだけでは終わらない 田島享央己、木彫の系譜

仏師の家系に生まれた五代目

田島享央己は、仏師の流れをくむ彫刻一家に生まれた、五代目の彫刻家です。祖父の田島亀彦は、近代日本彫刻を代表する朝倉文夫に師事した具象彫刻家で、父の田島義朗も木彫を中心に制作してきた彫刻家です。
田島は幼い頃から、父のアトリエで木や道具に触れて育ちました。木を削る音、木肌の感触、工房に漂う匂い。そうしたものが特別な勉強としてではなく、日常の中にあったことは想像に難くありません。彫刻は、田島にとって最初から遠いものではなく、身近にあるものだったのだと思います。
ただし、田島のすごさは、受け継いだ技術をそのまま見せびらかさないところにあります。彫刻一家に生まれた作家であれば、精密な技や職人的な上手さを前面に出すこともできたはずです。けれど田島は、あえて形を丸くし、表情を単純にし、キャラクターのような姿に落とし込んでいきます。
技術がないから簡単な形にしているのではありません。技術があるからこそ、どこまで削り、どこを残せば作品として立つのかを分かっている。そこに、田島の木彫の魅力があります。


かわいいだけでは終わらない 田島享央己、木彫の系譜

二頭身の立ち姿が想像を呼び込む

田島の代表的な作品に、二頭身の動物や人物のような木彫があります。大きな頭、小さな体、正面を向いた立ち姿。派手な動きはありません。走っているわけでも、叫んでいるわけでもない。ただ、そこに立っている。
この「何もしていない」感じが、かえって見る側の想像を広げます。怒っているのか、すねているのか、何かを諦めたのか、それともこちらをからかっているのか。説明が少ないからこそ、見る人が勝手に物語を考えてしまうのです。
また、田島の作品には、ユーモアと少しの毒気が同居しています。たとえば、名作を思わせる構図をイカやパンダに置き換えた作品では、美術史への目配せがありながら、見た瞬間に笑える軽さもあります。高尚なものをありがたく見せるのではなく、少しずらして、身近なものとして見せる。そのずらし方が田島らしいところです。
近年は、木彫をもとにFRPで再現し、一点ずつ手作業で着彩したシリーズや、自身の半生をコミカルに描いたリトグラフ作品「LIFE」シリーズも発表しています。彫刻だけでなく、絵画、版画、ドローイング、陶などへ広がっているのも、田島の表現の特徴です。

現代美術の中での立ち位置

田島享央己は、単に「木彫が上手い作家」ではありません。現代美術の文脈で見ると、伝統的な木彫と、キャラクター的な親しみやすさをつなぐ作家だと言えます。
日本の木彫には、仏像や能面、欄間、根付など、長い職人技の歴史があります。そのため、木彫を見ると、どうしても「どれだけ細かく彫れているか」「どれだけリアルか」に目が向きがちです。田島は、その見方から少し離れます。
田島の作品は、リアルな動物を再現するための彫刻ではありません。細部を省き、形を丸め、表情を少しだけ残すことで、見る人の感情に引っかかる像を作っています。完成された美しさを一方的に見せるのではなく、見る人がどう受け取るかまで含めて作品にしているように感じます。
さらに、キャラクター文化やポップアートとも相性があります。かわいい、面白い、少し怖い、気になる。そうした感覚から入れるため、現代美術に慣れていない人でも作品に近づきやすい。けれど、その奥には木彫の歴史や、作家自身の人生、社会との距離感も隠れている。田島の作品は、この入りやすさと奥行きの両方で評価されているのだと思います。


かわいいだけでは終わらない 田島享央己、木彫の系譜

ガチャになった「お彫刻」

田島享央己の作品を語るうえで外せないのが、「田島享央己のお彫刻コレクション」です。これは田島の彫刻作品をもとにしたミニチュアフィギュアのシリーズで、カプセルトイとして販売されました。
一点物の彫刻は、どうしても高価になります。好きでも簡単には買えない。けれど、カプセルトイなら手に取れる。机に飾れる。SNSに写真を載せられる。アートを「鑑賞するもの」から「持ち帰れるもの」に変えた点で、この企画はとても田島らしい展開でした。
もちろん、本物の木彫の質感や色彩をそのまま再現することはできません。それでも、小さなフィギュアになることで、田島の作品を知らなかった人にも届くようになりました。美術館やギャラリーに行く前に、ガチャで作家を知る。そこから展示に行ってみたくなる。そういう入口を作ったことも、田島の活動の面白さです。

国内外で広がる評価

田島の活動は、日本国内にとどまりません。2020年にはニューヨークのThe Nippon Clubで個展を開催し、同年にはVOLTA NEW YORKにも参加しています。その後もART TAIPEI、ONE ART Taipei、Vietnam International Art Fair、マカオでのグループ展など、海外での発表が続いています。
国内でも、アートフェア東京での個展ブース、gallery UGでの個展、百貨店での展示、京都蔦屋書店での個展など、発表の場を広げています。近年は木彫だけでなく、平面作品やドローイングにも注目が集まり、色彩感覚や画面構成の面でも評価されています。
とくに平面作品では、木彫のキャラクターたちがそのまま画面の中へ入ってきたような面白さがあります。背景の色、余白、キャラクターの置き方が大胆で、立体作品とは違うスピード感があります。木彫から絵画へ、絵画からグッズへ。表現の形を変えても、田島らしいユーモアと毒気は変わりません。
田島享央己の作品は、かわいいと言って近づいてもいいし、木彫の技術から見てもいい。現代美術として考えてもいいし、ガチャで手に入る小さなフィギュアから入ってもいい。どこから入っても、最後にはあの不思議な立ち姿に戻ってきます。
笑っているようで、笑っていない。ふざけているようで、真剣に彫られている。田島の木彫が忘れがたいのは、その曖昧な表情の中に、技術と遊び心、伝統と現代性が同時に立っているからなのだと思います。

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