2026.09.01
色と線で風景を変える ポール・ギヤマンの鮮やかな世界
ポール・ギヤマンの絵を見ると、まずその配色に目を奪われます。
赤、青、黄、ピンク、緑。鮮やかな色が画面に広がり、その間を太く伸びやかな線が走っています。描かれているのは馬や女性、花、バイオリン、風景など、身近なものです。
ただし、実際の形や色をそのまま描いているわけではありません。馬の脚が一本の線のようになったり、花と背景の境目が曖昧になったり、風景がいくつもの色面に分けられたりする。それでも、何が描かれているのかはきちんと伝わってきます。
細部を思い切って省き、鮮やかな色と大胆な線で見せる。そこに、ギヤマンの特徴がみてとれます。

風景を色と形に置き換えた《イル・ド・フランス》
ギヤマンの特徴がよく表れている作品の一つが、《イル・ド・フランス》です。
愛知県美術館には、1965年頃と1967年頃に描かれた同名の作品が2点所蔵されています。
画面には黄色やピンク、緑などの明るい色が広がり、木や建物、道を思わせる形は大胆に省略されています。実際のイル・ド・フランス地方の景色を細かく描き写した作品ではありません。
それでも画面を追っていくと、木があり、道があり、その向こうに空が広がっているように見えてきます。
風景をそのまま再現するのではなく、そこで目にした形を整理し、印象に残った色を強くする。《イル・ド・フランス》には、ギヤマンらしい風景の捉え方がよく表れています。

パリで学び、ローマへ
ポール・ギヤマンは1926年、フランス北部のサン・カンタンに生まれました。
パリの国立美術学校で学び、モーリス・ブリアンションらの指導を受けます。そして1952年、若手芸術家の登竜門として知られたローマ大賞を受賞しました。
受賞後はローマのヴィラ・メディチに滞在し、イタリア美術に触れます。その後もサロン・ドートンヌやサロン・ド・メなどに出品し、1950年代後半からフランス国外にも活動の場を広げていきました。
当時は、対象を具体的に描かない抽象絵画が大きな流れとなっていた時代です。ギヤマンもその影響を受けましたが、馬や人物、花、楽器といった具体的なモチーフを描き続けました。
何を描いたのかは分かる。しかし、見たままではない。
具象を残しながら、形を単純化し、現実とは違う色を大胆に使う。その描き方が、ギヤマン独自の画風へとつながっていきました。

馬も花も、細部を描きすぎない
ギヤマンは、馬を繰り返し描いた画家としても知られています。
ただし、筋肉や毛並みまで細かく描き、本物そっくりに見せようとしたわけではありません。背中から脚へ続く線を大きく伸ばし、頭や胴体を単純な形にしています。細部を省くことで、馬の姿は抽象化され、それでも静かに佇む様子が伝わってきます。
花やバイオリン、女性を描くときも同じです。
花びらを一枚ずつ描かなくても、色のかたまりと線で花だと分からせる。物の輪郭をなぞるだけではなく、線そのものを曲げたり伸ばしたりすることで、画面に動きをつくります。
色も実物に合わせる必要はありません。赤い馬や青い人物など、現実にはない配色をためらわずに使います。とくに赤と青はギヤマンの作品によく登場し、黒や濃い色の線が鮮やかな色面を引き締めています。
写真のように描き込むのとは、まったく違う上手さです。
どこを省けば馬に見えるのか。どの線を残せば動きが生まれるのか。どんな色を置けば画面が強くなるのか。ギヤマンの作品を見る面白さは、そうした選択の一つひとつにあります。

日本で親しまれたフランスの画家
ギヤマンと日本との関係は深く、1968年には来日し、東京、名古屋、大阪、福岡で展覧会を開催しました。その後もたびたび日本を訪れています。
1975年には、東京のホテルニューオータニ新館のために、大壁画《パラダイス》を制作しています。
活動は油彩画だけにとどまりません。版画、挿絵、モザイク、彫刻、タピスリーなどにも取り組み、大きな建築空間のための作品も手がけました。
ギヤマンの作品は、抽象的な表現を取り入れていても、馬や花、楽器といったモチーフの姿が残っています。そのため、美術に詳しくなくても、まず鮮やかな色や形から楽しむことができます。
近づいて見れば、一本の線が馬の脚になり、色のかたまりが花になっていることに気づく。離れて見ると、それらが一つの画面として勢いよくまとまっている。その分かりやすさと大胆さも、日本で長く親しまれてきた理由の一つでしょう。

鮮やかな色の中に残るもの
ポール・ギヤマンは2007年、81歳で亡くなるまで制作を続けました。
馬、花、女性、楽器、風景。題材は変わっても、鮮やかな色と大胆な線は作品を通して繰り返し登場します。
《イル・ド・フランス》も、実際の景色をそっくり描いた作品ではありません。木や建物は単純な形になり、黄色やピンク、緑が大きく広がっています。それでも、明るい土地の景色が目の前に広がるように感じられます。
細かく描けば伝わるとは限らない。形を省き、色を変えることで、かえって強く伝わるものもある。
ギヤマンの作品を見ていると、絵を描くことの自由さがよく分かります。