はじめに
フランスが誇る現代画家ベルナール・カトラン。鮮やかな色彩と豊かな質感で花や静物を描き続けた彼の作品は、世界中の美術愛好家を魅了し続けています。
特に日本との深い関わりを持ち、1967年の初来日以降、日本文化からインスピレーションを得た数々の作品を生み出しました。その独特の色彩感覚と抽象とリアリズムが融合した表現スタイルは、今日も高い評価を受けています。
今回は、ベルナール・カトランの生涯と作品の魅力、そして市場価値についてご紹介します。作品の買取に関する情報もご用意していますので、カトラン作品をお持ちの方、売却をご検討の方は、ぜひ最後までお読みください。
ベルナール・カトランとは?
パリから世界へ羽ばたいた色彩の画家

1919年5月20日、フランス・パリに生まれたベルナール・カトランは、第二次世界大戦後の1945年にパリ国立高等美術工芸高校に入学し、モーリス・ブリアンションのもとで芸術を学びました。ブリアンションから「シンプルさの中に美がある」という哲学や、色彩と空間構成の調和を学んだことが、後の作風に大きな影響を与えています。
カトランの才能は次第に認められていき、1950年のブリュメンタル賞受賞を皮切りに、彼の独創性は次々と評価されていきました。
そして1957年、カトランの芸術人生の転機が訪れます。この頃からパリやニューヨークを中心に世界各地で個展を開催するようになり、その名は次第に国際的に知られるようになりました。
1965年には「ムルロ工房の版画」カタログにピカソやシャガールといった巨匠たちと並んで掲載される栄誉を得たのです。長年の努力が実を結び、ついに1995年にはフランス政府からレジオン・ドヌール勲章(※)を授与され、国際的な地位を不動のものとしました。
カトランはマティスやシャガールと同じパリ派の一員として、静物画、風景画、肖像画の分野で活躍。2004年4月17日、84歳でパリの自宅にて心臓疾患により永眠しました。
※レジオン・ドヌール勲章:フランス政府が授与する最高位の勲章のひとつで、芸術や文化など様々な分野での功績に対して与えられる。
日本との深い関わりと影響
カトランと日本の出会いは、1967年に東京の吉井画廊で開催された初の日本個展に始まります。この展覧会が、彼の人生と芸術に大きな転機をもたらすことになりました。
日本の美意識や文化に魅了されたカトランは、その後も日本との絆を深めていきます。1973年の東京での個展は大きな反響を呼び、日本の美術愛好家たちの間で彼の名前は急速に広まりました。彼の作品に見られる洗練された色彩感覚と余白の美学は、日本人の感性と深く共鳴したのでしょう。
日本文化への興味はさらに深まり、1983年には「俳諧十選」という俳句に絵を添えた版画集を制作します。これは単なる挿絵ではなく、日本の短詩形文学と西洋の視覚芸術の見事な融合でした。翌年にはこの作品の小品展を東京で開催し、日本の伝統文化への敬意と理解を示しました。
この文化交流はさらに実を結び、1987年には自身のリトグラフ(※)カタログの出版を祝して、大阪、神戸、東京を巡回するリトグラフ展が開催されました。カトランの作品が日本各地で展示され、多くの人々がその色彩の世界に魅了されたのです。
※リトグラフ:平らな石の表面に油性の材料で描画し、水と油の反発作用を利用して印刷する版画技法。

作品年代による表現の変化
カトランの芸術表現は時代と共に進化しました。師ブリアンションから「シンプルさの中に美がある」という基本理念を学びながらも、やがて彼独自の抽象的かつ詩情豊かな作風を展開するようになります。
初期作品では師の影響が色濃く現れていましたが、次第に抽象とリアリズムが融合した独自の表現世界を確立していきました。特に1957年以降、国際的な展覧会活動を通じて、その作風はより洗練されていきます。
カトランは花や静物、風景などをモチーフに、詩的で神秘的な世界を描き続けました。彼の作品は抽象的でありながらリアリズムの要素も併せ持つ、一見矛盾する表現が共存する不思議な魅力を放っています。晩年に至るまで、大胆な構図と明るい色彩による花の静物画を中心に精力的に創作活動を続けました。
このようにカトランの芸術は常に進化し続けましたが、その独特の色彩感覚は作品の魅力の核となっています。では、彼の作品の具体的な特徴と魅力について、さらに詳しく見ていきましょう。

ベルナール・カトランの作品の魅力や特徴
色彩と質感の融合
カトランの作品最大の特徴は、豊かな質感と鮮やかな色彩表現にあります。彼は詩的かつ神秘的な感覚で花や静物、風景を描き、抽象とリアリズムが絶妙に調和した独自の世界を創り出しました。
パレットナイフ(※)を巧みに操るカトランの優しいタッチは、鑑賞者に穏やかな心の安らぎをもたらします。同系色を用いた構成が特徴的で、ミニマリスト的な風景画や室内画には、仏教思想の影響も見られると言われています。
彼の画面では一般的には相克する鮮やかな色彩同士が、不思議な調和を生み出しています。これらの色彩は互いに競い合うのではなく、共に成長し、調和した結論に至るような印象を与えます。これは各色彩がリアリズムを包み込むという共通の役割を持っているからでしょう。
※パレットナイフ:絵の具を混ぜたり、キャンバスに直接塗ったりするための、へらのような道具。
代表的なモチーフと作品群
カトランは花や静物を中心としたモチーフを好み、特に花をテーマにした作品は高い人気と評価を得ています。
代表的なモチーフと構図から描かれた「ゼラニウムの花束のある床の間」は、カトランの静物画の真髄を示す作品です。日本の伝統空間である床の間に、鮮やかな西洋の花・ゼラニウムを配置するという斬新な構図を採用しています。東西文化の融合を試みたこの作品では、色鮮やかな花と日本的空間の対比が絶妙なハーモニーを奏で、見る人に新たな視点を提供します。

「インドバラと紫陽花」も特筆すべき名作の一つです。この作品ではアジアのエキゾチックな花・インドバラと、日本を代表する花・紫陽花が一つの画面上で美しく共存しています。異なる文化の花々を並置することで、国境を越えた調和というメッセージを込めたとも解釈できます。インドバラの強い色彩と紫陽花の優しい色調が画面に独特の緊張感と調和をもたらしています。
「黒いテーブルの上の百日草の花束」では、漆黒のテーブル上に置かれた小ぶりな花瓶から溢れるように咲く百日草が描かれています。控えめな器に対して生命力あふれる花々のコントラストが印象的で、全体を赤色のトーンで統一することで、鑑賞者に活力を与える効果を生み出しています。
他にも「青い背景の青いアネモネ」や「ピンクの背景の百日草」など、カトランは花をテーマにした多くの秀作を残しており、これらは彼の優れた色彩感覚と構図の巧みさを示す重要な作品として美術史に位置づけられています。
リトグラフ作品の特色
カトランは油彩画だけでなく、リトグラフ制作にも情熱を注ぎました。1965年には「ムルロ工房の版画」カタログにシャガールやピカソといった巨匠たちと共に掲載される栄誉を得ています。
1976年には母親の思い出のためにリトグラフ50点を美術館に寄贈するなど、彼にとってリトグラフは特別な意味を持つ技法と言えるでしょう。

ベルナール・カトラン作品の買取相場・実績
※買取相場価格は当社のこれまでの買取実績、および、市場相場を加味したご参考額です。実際の査定価格は作品の状態、相場等により変動いたします。
赤いテーブルのムスティエの鉢植え

アボカドの皿の緑と黒の静物

黒と黄色の背景の中国花瓶の黄色い花束

ベルナール・カトランの作品の査定・買取について、まずはお気軽にご相談ください。
ベルナール・カトランの作品を高値で売却するポイント
来歴や付帯品・保証書
来歴や付帯品:購入先の証明や美術館に貸出、図録に掲載された作品等は鑑定書が付帯していなくても査定できる場合があります。
保証書:購入時に保証書が付帯する作品もあるので大切に保管しましょう。
贋作について
ここ数十年のインターネットや化学技術の向上により、著名作家の贋作が多数出回っています。
ネットオークションでは全くの素人を装い、親のコレクションや資産家所蔵品等の名目で出品し、ノークレームノーリターンの条件での出品が見受けられます。
落札者は知識がないがために落札後のトラブルの話をよく聞きます。お手持ちの作品について「真贋が気になる」「どの様に売却をすすめるのがよいか」等、お困りごとがあればご相談のみでも承っております。
油彩画(額)
状態を良好に保つ為の保管方法
油絵は主に布を張ったキャンバスと言われるものに描かれています。他にも板に直接描かれた作品もあります。油絵の具は乾燥に弱く、色によってはヒビ割れ目立つ作品が見受けられます。また、湿気によりカビなどが付着しやすく、カビが根深い場合は修復困難となってしまいます。高温多湿を避け、涼しい場所に飾りましょう。また箱にしまったままも湿気やすい為、最低でも年に2回は風を通すようにしましょう。
修復方法
油彩画修復の専門店にお願いすることが1番です。下手に自身で手を入れると、返って悪化するケースもあります。
版画
共通事項(状態を良好に保つ為の保管方法)
版画には有名画家が直接携わり監修した作品も多くあります。主に版画作品下部に作家直筆サインとエディション(何部発行した何番目の作品であるか)が記載されています。
主に紙に刷られており、湿気や乾燥に弱いです。また直射日光が長期間当たると色飛びの原因になります。掛ける場所・保管場所には十分注意しましょう。
リトグラフ
石版画とも言われ、ヨーロッパの歴史では古くから用いられてきました。日本でも昭和から活発に使用され、各地にリトグラフ専門の工房が存在します。
ベルナール・カトランについての補足情報
国内外の展覧会と主要コレクション
カトランの作品は世界中の一流美術館やギャラリーで展示され、その独自の芸術世界は国境を越えて多くの人々を魅了してきました。
2000年には上海美術館で回顧展が開催され、大きな話題となりました。また、アメリカではミルウォーキー美術館やスペンサー美術館などの主要な美術館にもカトランの作品が収蔵されています。
日本国内では、2008年には彫刻の森美術館で「ベルナール・カトラン回顧展」が開催され、多くの美術ファンが訪れました。
世界のどこに旅をしても、カトランの色彩豊かな世界に触れる機会があるのは、彼の芸術が持つ普遍的な魅力の証といえるでしょう。
まとめ
鮮やかな色彩と独特の質感で花や静物を詩的に表現し続けたベルナール・カトラン。彼の作品は、美術館での展示はもちろん、私たちの生活空間に彩りと活力をもたらす存在として、今なお多くの人々に愛され続けています。
当社では、あなたの大切な作品の価値を最大限に引き出すべく、丁寧な査定と適切なアドバイスを提供いたします。ベルナール・カトランの作品の買取をご検討される際は、ぜひお問い合わせください。
また、LINEからの査定依頼も受け付けています。(スマホで写真を撮って送るだけ!)詳しくは【LINE査定ページ】をご覧ください。