作家・作品紹介

ことばのいらない絵本・安野光雅

ページを開くと、文字がまったくない。でも、そこには静かな町の風景が広がっていて、歩いている人や、屋根の上でのんびりしている猫、遊んでいる子どもたちが描かれている——それだけなのに、なんだか物語がはじまるような気がしてくる。
そんな「絵だけで語る」絵本を描いたのが、安野光雅(あんの・みつまさ)という画家です。

子ども向けの絵本作家と思われがちだけど、安野さんの作品は、大人になってから読むと「なんでこんなに深いの?」と驚くことも少なくありません。今回は、そんな安野さんの魅力をご紹介します。

ことばのいらない絵本・安野光雅

島根の田舎町からスタートした、絵と好奇心の旅

安野光雅さんは、1926年に島根県の津和野町という小さな町で生まれました。自然が豊かで、旅館を営む家庭で育った彼は、小さいころから絵を描くのが大好きで、雑誌や小説の挿絵を見ては、真似して描いていたそうです。
やがて美術の先生になり、小学校で図工を教えるようになります。でも、それだけではおさまらず40代で教員をやめ、画家として本格的に活動をはじめます。

初めての絵本『ふしぎなえ』(1968年)は、文字がまったく登場しない作品でした。だけど、ページをめくるごとにちょっとずつ変化があって、まるでナゾ解きみたいに楽しめる。「絵本=読むもの」という常識をくつがえした一冊でした。


ことばのいらない絵本・安野光雅

アートと数学をつなぐ——知性あふれる絵本たち

安野さんの絵本には、ただの物語ではなく、数学や科学、ことば遊びなどがひそかに入りこんでいます。『ABCの本』ではアルファベットの形の面白さを絵で伝えたり、『かずの本』では数字を使ってリズムのある世界をつくったり。
特に『旅の絵本』シリーズは、世界の町を言葉なしで旅できるような不思議な絵本です。ヨーロッパや日本の町並みを細かく描きながら、よーく見ると同じ人物が何回も出てきたり、小さな動物がかくれていたり、おとぎ話の主人公や、有名な絵画へのオマージュまで。そんな「しかけ」がたくさんあるので、読むたびに新しい発見があります。
遊びながら学べる、感じながら考える。そんな不思議なバランスが、「学ぶこと」と「感じること」の間にある壁を軽やかに取り払ってくれる、まさに知的なアートです。


ことばのいらない絵本・安野光雅

言葉がなくても、気持ちは伝わる

安野さんの描く絵は、どれも静かでやさしい雰囲気があります。水彩の淡い色づかいで描かれた町や人々は、どこか懐かしくて、見ているだけで落ち着くような気持ちになります。

そういう「やさしさ」は、日本だけじゃなく世界中の人に届きました。1984年には「国際アンデルセン賞・画家賞」という、絵本の世界でとても大きな賞を受賞。文化功労者にも選ばれ、彼の作品は小学校の教科書にも使われました。

もともと先生だったからこそ、「伝えること」のむずかしさと大切さをよく知っていたのかもしれません。絵本なのに、まるで授業を受けているみたいに学びがある。だけど、お説教くさくはない。そんな絶妙な距離感が、多くの人の心をつかんできた理由のひとつでしょう。


ことばのいらない絵本・安野光雅

もっと知りたくなったら、美術館へ

もし安野さんの世界をもっと深く知りたくなったら、彼の故郷にある「津和野町立安野光雅美術館」へ行ってみるのもおすすめです。スケッチや原画、制作の裏話がわかる展示があり、絵本では見えなかった部分にふれることができます。

2025年の春には、新潟県立近代美術館で「安野先生のふしぎな学校」という展覧会も開催されていました。国語、算数、理科……まるで学校のように教科ごとに作品が展示されていて、学ぶことと描くことがつながっているのがよくわかります。


絵本の中に、何を見る?

安野光雅の絵本は、読むたびにちがった世界が見えてきます。ことばがなくても伝わること、数や図形がこんなに楽しく見えること、遠い国の風景がまるで自分の記憶のように感じられること——それが彼の作品の魅力です。

もしおうちに安野さんの絵本があったら、もう一度ゆっくりページをめくってみてください。子どものころには気づかなかったことが、きっとたくさん見えてくるはずです。そして、そこには今もなお、新しい物語が生き続けているかもしれません。

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