作家・作品紹介

みなさんは美術品のどのような部分に心を惹かれますか？
私は癒しの雰囲気に惹かれ、心が感じるフィーリングを大事にしていす。私は名古屋本社に勤務しているので、地元で活躍されていた島田章三の作品を度々目にすることがあります。愛知県立芸術大学元学長だったということもあり、東海地区では馴染みのある作家です。作品を観ると、その優しい色使いと画面構成に惹かれ気づいたら時間が経つことがしばしば…。そして最近では現代アート作家奈良美智とも先生と生徒という関係で繋がっていたということを知り、改めて作品を鑑賞してみました。今回は油絵画家の島田章三についてご紹介いたします。

画家として生きる

島田章三は1933年横須賀市にて浦賀ドックで客船のインテリアデザイナーをしていた父と、歌人の母という両親の元に三男として生まれます。軍人であった長兄の陽一は戦争で亡くなり、次兄の修二は有名な歌人で朝日歌壇の選者として知られています。幼い頃からデザイン雑誌、美術全集、文学全集に囲まれ恵まれた環境の家庭に育った章三は、14歳の時に応募した納税ポスターコンクールで大蔵大臣賞を受賞します。その時の賞金5,000円で油絵の道具を購入すると、イーゼルを担いで横須賀市の馬堀海岸、走水、観音崎まで徒歩で写生に通ったそうです。この頃から絵を描くことを一生の仕事にしたいと思い始めます。

初受賞

東京藝術大学在学中の1957年に国画会に初出品した「ノイローゼ」では、横須賀の荒地のなかに時代の不安感を抱えた人物像を暗く重々しい色彩で描き出し、国画賞を受賞します。1967年には、赤や黄色など暖色系の鮮やかな色彩で構成された「母と子のスペース」で安井賞を受賞します。こちらの作品は東京国立近代美術館に所蔵されています。この頃、伊藤廉の誘いで新設の愛知県立芸術大学に非常勤講師として赴任招聘されます。

ヨーロッパで得た経験を元に

1968年から1969年にかけては、愛知県在外研修員としてヨーロッパに留学した島田は、ピカソ、ブラック、レジェといったキュビスムを追求した巨匠たちの芸術に触れ、立体派（キュビスム）を日本人の言葉（造形）で翻訳したいと考え、「かたちびと」という制作テーマを生み出しました。幾何学的に構成された日常の情景のなかに人物を描き出し、キュビスムを日本人的な感性でとらえようとしたのです。形や線の美しさ、楽しさをひたすら追求し続けていきます。

島田にとって「造形とは何か？絵画とは何か？」を問いかけることが、画家の終生のテーマとなりました。島田が最も存在を意識した画家が、妻であり洋画家の島田鮎子です。島田の作品やその制作を一番身近で見つめ続けた人でもあります。大学の同級生であった二人は1962年に結婚しました。ともに国画会会員ですが、愛知県立芸術大学学長をはじめ多くの要職を歴任し、芸術院会員であった章三に対し、鮎子は公職には就かず、個展での発表を中心として制作活動を続けてきました。画家としての活動スタイルが違うことで互いを支え、画家としての活動を互いに認め合い、同じ絵の道を究めようと共に歩んだ二人。どちらかが筆を折っていたらおそらくこのスタイルは確立しなかったでしょう。

現在活躍中の現代アート作家 奈良美智

愛知県立芸術大学で島田のクラスに奈良美智が生徒でいましたが、皆のように先生の元に集まってワイワイするのが好きではない奈良は、先生になついている生徒が絵を見てもらったりしている姿を内心羨ましく思いながらも、あぶれ者のような感じで学生生活を送っていました。4年生になった奈良は、島田から「こういう美術賞があるから応募したらどうだ。推薦状を書くぞ」と声を掛けられます。絵の制作に一生懸命打ち込んでいる姿を見守っていてくれたからこそ、話をいただけたのだと気付きます。瀧冨士美術賞を受賞した奈良は賞金の一部を使って名古屋の画廊を借りて初の個展を開催しました。
今の奈良の作風からは想像できませんがこの頃の初期作品はどこか章三の影響を受けているように感じます。

島田章三の作品を鑑賞できる美術館

2016年に惜しまれつつ亡くなった島田章三。その作品の多くは、愛知県美術館や愛知県小牧市のメイナード美術館などに多く収蔵されており鑑賞することができます。ぜひ彼の絵の優しさ温かさを感じて見てください。