作家・作品紹介

静けさの中にある力強さ──牛島憲之のまなざし

静けさの中にある力強さ――牛島憲之のまなざし

静かな風景が語りかける牛島憲之の画風の魅力

畑の真ん中にぽつんと立つ一本の木。夕暮れの影がゆっくりと道にのびていく。どこにでもありそうな風景なのに、どこか胸を打つような、懐かしさとやさしさがある。牛島憲之(うしじま のりゆき)の作品を前にすると、まるで静かな映画を見ているような気持ちになります。音はないのに、空気の揺れや光の匂いまで伝わってくるような、不思議な感覚。派手さはないけれど、じんわりと心に残る絵──それが牛島作品の魅力です。

1900年、熊本県に生まれた牛島は、東京美術学校(現・東京藝術大学)で洋画を学び、岡田三郎助に師事します。卒業後は芝居や働く人々の姿を描くなど、人物画からスタートしましたが、やがて静かな風景画へと転じていきました。彼の作品には、まるで時が止まってしまったかのような風景がたびたび登場します。水門や煙突、工場などの人工物も、どこか詩的に映り、そこに流れる光や空気、風の気配が、見る人に深い余韻を残します。


静けさの中にある力強さ――牛島憲之のまなざし

透明感と静けさを描く──技法と世界観

特に好んで描いたのが「水のある風景」。川辺や堤防、水門のそばでスケッチをし、ときには釣りをしながらじっくりと自然を観察していたといいます。そんな日々の積み重ねが、絵の中にゆったりとした時間とやさしい光をもたらしているのかもしれません。
牛島の油絵は、厚塗りの力強さよりも、水彩画のような透明感とやわらかさが特徴です。何度も色を薄く塗り重ねていくことで、画面に淡い光がにじむような表現が生まれます。その繊細な画風は、風景を押しつけるのではなく、見る人の感性にそっと寄り添うような静けさを持っています。

また、彼の作品には人物がほとんど描かれていません。その代わり、風景そのものが語りかけてくるようです。誰の記憶にもあるような、でもどこにもない風景。見る人それぞれの心の中にそっと入り込み、静かに物語を始めるような絵画世界が広がっています。


静けさの中にある力強さ――牛島憲之のまなざし

画壇と距離を保ち続けた生涯

同時代に活躍した洋画家には、梅原龍三郎安井曾太郎小磯良平などがいます。彼らが西洋的な絵画の様式を積極的に取り入れ、鮮やかな色彩や躍動感を重視した一方で、牛島は流行に流されることなく、淡くやさしい色調と静けさをたたえた風景にこだわり続けました。
社交的とはいえなかった牛島は、画壇との距離を保ちつつ、自分の感性を何より大切にし続けました。その姿勢は、1983年に文化勲章を受章するなど高く評価されつつも、本人は名誉にとらわれることなく、「絵の具とキャンバス、雨風をしのげる場所と目と手があれば絵は描ける」と語り、晩年まで変わらず絵筆を握り続けました。
現在、牛島の作品は東京国立近代美術館、群馬県立近代美術館、目黒区美術館などに収蔵されています。2024年には渋谷区立松濤美術館で回顧展も開かれ、多くの人々がその叙情的な世界に魅了されました。
牛島憲之の絵は、見る人の感情や記憶と静かに響き合うような力を持っています。静かだけれど深い、やさしくて強い。その風景にそっと目を向けたとき、私たちは派手な演出ではなく、「静けさの中の豊かさ」という、もうひとつの美しさに気づかされるのです。

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