作家・作品紹介

色と形で語りかける、ミズ・テツオの世界

約15年前、業界の大先輩から1枚の絵をいただきました。
水彩で描かれたカラフルな四角形が並ぶ抽象画で、ずっと自宅に飾ってきましたが、正直なところ作者について深く調べることはしてきませんでした。ところが今年の1月、その画家が亡くなられたと知り、今になって「どんな人だったのだろう」と気になって調べてみることに…。その画家の名前は、ミズ・テツオ(本名:水島哲雄、1944–2025)。国際信号旗に魅せられた抽象画家です。


不思議な形が心に残る理由

1944年に東京で生まれたミズ・テツオは、23歳のときにイタリアの画家アメデオ・モディリアーニの作品に出会ったそうです。そのときの衝撃はとても大きく、「生涯の師」と感じるほど心を打たれたと伝えられています。その後は武蔵野美術学園に入り、本格的に絵の道を歩み始めました。初期の作品にはモノトーンを基調とした人物画があり、竹久夢二を思わせる表情も感じられます。どこか寂しげで、もしかすると少年期の孤独や思いが投影されているのかもしれません。


色と形で語りかける、ミズ・テツオの世界

身近な記号が生む親しみやすさ

彼が一躍注目を浴びたのは、1980年代に発表した《フラッグ・シリーズ》です。これは、海の上で船同士が通信に使う「国際信号旗」を題材にしたものです。旗は一枚ごとにアルファベットや数字を意味していますが、ミズはそれを自由に組み合わせ、作品として表現しました。私がいただいた絵もこのシリーズのひとつで、旗を読み解くと「ALLEGRETTO(アレグレット)」という音楽用語になることが分かりました。イタリア語で「やや速く」という意味で、作品のリズムとも重なっているように思えます。
ぱっと見は規則的な抽象画ですが、よく見ると手描きの揺らぎがあり、筆の跡からは人の気配が感じられます。信号旗という冷たく見えがちな記号を扱いながら、どこか温かさや懐かしさを漂わせているのが印象的です。だから抽象画に馴染みがない人でも親しみを持って眺められるのかもしれません。


色と形で語りかける、ミズ・テツオの世界

世界を舞台に広がった表現

ミズ・テツオは日本だけでなく、ヨーロッパを中心に幅広く活動していました。パリやスイス、ブラジルなどで展覧会を開き、国際的なアートフェアにも数多く参加しています。1989年には「ピカソダリシャガール・ミズ」という展覧会に名を連ねたこともあり、海外でも一定の評価を得ていた様子がうかがえます。また、1998年の長野オリンピックの会場には、彼が手がけた巨大な陶壁画が設置されました。教会のステンドグラスなど、大きな公共作品も制作していて、その活動のスケールの広さを感じさせます。


絵に込められた記憶や物語

影響を受けた画家としては、モディリアーニのほかに竹久夢二の名前も挙げられるようです。夢二の人物画に見られるような哀愁や、モディリアーニの造形感覚が、ミズの作品に通じる部分があると感じられます。そこに信号旗というモチーフを組み合わせることで、「誰にでも入りやすい抽象画」という独自のスタイルを生み出していったのではないでしょうか。
彼の作品は横浜美術館や滋賀県立近代美術館などに収蔵されており、海外のコレクションにも加わっています。美術館に収められているということは、その作品が長く価値を持ち続けると見なされているのかもしれません。

振り返ってみると、ミズ・テツオの魅力は「分かりやすさ」と「深さ」の両方があるように思えます。信号旗という身近な題材を使っているから、誰でも入りやすい。一方で、その奥には作家自身の思い出や感情が込められていて、眺めるほどに物語を感じられる。そして、国際的に活動し、大規模な作品にも挑戦していたことで、芸術の広がりや可能性を示していたようにも思えます。

長い間、ただ「色鮮やかな抽象画」として飾っていた一枚の絵。その背後には、国際的に評価された画家の人生や想いが広がっていました。作品を改めて眺めると、以前とは違った奥行きを感じ、より身近に思えてきます。ミズ・テツオの絵は、抽象でありながら人の心に物語を呼び起こす不思議な力を持っているようです。その魅力はこれからも、多くの人の心に静かに届き続けていくのではないでしょうか。

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